外国人観光客の増加に伴い外国人フロントスタッフのニーズは年々上がっています。加えて、宿泊業は慢性的な人手不足なのも事実です。宿泊業で外国籍スタッフを採用する際に、すべての業務を常に行わせてよいわけではありません。本編では、宿泊業における外国人スタッフに行わせてよい業務内容、在留資格の手続きについて解説していきます。
外国籍の人材を社員として採用する際の流れ
宿泊業で外国人の社員として採用する場合、特段問題なく在留資格を取得することは可能ですが、業務内容に注意をしない場合不法就労につながる可能性があります。宿泊業の場合、国籍にも注意を払って採用しなければなりません。外国人材を採用することの意味をしっかりと考え、きちんと在留資格を見極め、それに合う人材を採用し、必ず出入国在留管理庁に届け出を出す必要があります。そのため、内定を出す前にしっかりと在留資格に問題がないかを見極めておかなければなりません。
多くの宿泊業を営む企業で外国人スタッフを雇用されていることから、難しいことではないように感じますが、意外にポイントを抑えないと許可を得られにくい業種です。
しかし、きちんと手続きを行えば、宿泊業において外国人スタッフは大きな戦力となります。
まず大前提として、外国籍の方の雇用の管理は、基本的には『日本人の雇用』+『在留資格』です。つまり、日本人の方が適法に働けているような職場であれば、あとは正しく在留資格を取得できれば特に恐れるような問題はありません。
では、宿泊業で外国人材を採用するためのポイントと流れを確認してみましょう。
在留資格について ~宿泊業で採用できる在留資格とは~
宿泊業でフロントスタッフとして採用できる在留資格(ビザ)は複数あります。これらについて解説をします。
在留資格の基礎知識
「在留資格」とは、外国人が合法的に日本に上陸・滞在し、活動することのできる範囲を示したものです。2022年3月現在29種類の在留資格があります。在留資格は「ビザ」という名称で呼ばれることが多いです。
在留資格は、活動内容や身分(配偶者・子など)によって割り当てられています。日本に滞在するすべての外国人が、何かしらの在留資格を持っているということになります。よって、外国人は活動内容や身分(ライフスタイル)に合わせて、在留資格を変更しながら日本に滞在することになります。
例えば、上記の方の場合、日本語学校の学生の間は「留学」ビザで活動します。その後、料理しになった場合は「技能」というビザに切り替えなければなりません。また、独立開業してレストランの経営者になった場合は「経営・管理」ビザを取得します。もし、将来、日本への永住を決意し一定の要件を満たしているようであれば、「永住者」ビザを取得することもできます。
つまり、”就労が認められている在留資格”毎に行ってよい業務内容が決まっています。業務内容が多岐にわたる宿泊業の場合、業務内容に合わせた在留資格を取得することになります。
在留資格の一覧は下記になりますが、言い換えると以下に当てはまるものがない場合は、日本での滞在はできないということになります。
今回の採用活動の”本当の目的”は何ですか?
宿泊業において、外国人材を採用したいと考える理由はおおよそ以下ではないでしょうか。
- 外国人観光客の増加に伴い、フロントでの多言語対応を実現したい
- 外国の観光エージェントへの営業を強化したい
- 外国の観光客を呼び込むためのマーケティングを強化したい
- 併設レストランや清掃スタッフ、ベッドメイクの人員が不足している
- 本部スタッフとして採用したい
宿泊業の場合、①②③のように外国語が話せる人材を雇用したいというニーズ、④のように人手不足に対応したい場合、⑤のように日本人・外国人問わない場合の3パターンに分類できると思います。
宿泊業で注意が必要なのが、①-③の業務を行う場合でも大きな事業所でない限り専属で行うことはなく、時間帯によっては配膳や清掃を行うということも考えられます。これは、在留資格の範囲内として認められている業務内容すが注意が必要な点になります。①-③と④の業務内容の比率から、適切な在留資格を選ぶ必要があります。
外国人スタッフ採用の”本当の目的”を抽出し、御社に本当に欲しい人材が外国人ならではの戦力なのか、単に人手不足の解消であるのかの見極めをはじめに行いましょう。
宿泊業で雇用可能な在留資格(ビザ)について
“就労ビザ”にはそれぞれ特徴があります。そして、これらの特徴に合わせて適切な在留資格を選択し、これらの要件を満たす人材を雇用する必要があります。
在留資格毎の特徴
ここまでで、外国籍の方が活動内容に合った在留資格を持っている必要があることを説明しました。とはいえ、29種類も在留資格が列挙されていてどのように判断すればよいか、なかなか分かりにくいと思います。
ここでは、宿泊業で就労可能な代表的な就労ビザについての説明と、その在留資格で就業可能な業務内容について触れたいと思います。
- 技術・人文知識・国際業務 :①フロントスタッフ、②法人営業、③販促・広報・マーケティング、⑤本部スタッフ
- 特定活動(46号) :①フロントスタッフ、②法人営業、③販促・広報・マーケティング、④現場スタッフ
- 特定技能 :④現場(フロント、配膳、ベッドメイク等)スタッフ
- 高度専門職1号(ロ):①フロントスタッフ、②法人営業、③販促・広報・マーケティング
※ただし、翻訳通訳業務をメイン業務とすることはできないため注意してください。
- 身分系の就労制限のない在留資格(『永住者』『永住者の配偶者等』『日本人の配偶者等』『定住者』):①~⑤(どのような業種でも問題ありません)
※アルバイトの場合は『留学』や『家族滞在』ビザで『資格外活動許可』を取得していれば週28時間以内で就労可能です
宿泊業で雇用可能な就労ビザは『技術・人文知識・国際業務』・『特定活動(46号)』・『特定技能』・『高度専門職』になります。それぞれの在留資格と可能な業務の範囲のイメージは下記になります。
『高度専門職』『技術・人文知識・国際業務』は基本的は学術的素養を背景とする業務を行うことになります。これがマニュアルや訓練によって習得できる業務は該当しません。『特定技能(46号)』は『技術・人文知識・国際業務』に加えて単純労働や技能に該当する業務が可能です。『特定技能』は人手不足が著しい特定の業種で単純労働や技能に該当する業務を行うことができる在留資格で、宿泊業は指定されている分野になります。
在留資格『技術・人文知識・国際業務』
在留資格『技術・人文知識・国際業務』の場合、①フロントスタッフ、②法人営業、③販促・広報・マーケティングとして採用することが想定されます。研修期間として、清掃や配膳、ベルボーイなどの現場業務は一時的に行うことは認められます。また、本配属後も日本人が同様のタイムスケジュールで業務を行っている場合にも、付随業務として現場業務を行うことは問題ないとガイドラインでも発表されています(詳しくは後述します)。
在留資格『高度専門職1号・2号』
在留資格『高度専門職1号・2号』の場合は、基本的には『技術・人文知識・国際業務』の業務内容を行う場合で、高度人材としてのポイント制の基準を満たしていれば取得が可能です。ただし、『高度専門職』は通訳翻訳を主たる業務とすることはできないため注意が必要です。フロントスタッフは宿泊業についていない人は翻訳通訳業務を想起してしまいがちですが、実際は高度なマーケティング活動や管理業務を行っている場合もあります。申請時に単に”フロント業務”と申請すると”翻訳通釈業務”とみなされ不許可となる場合があるため、きちんと理由書で業務内容を説明することが求められます。
もちろん、『高度専門職』の在留資格を得るために業務内容を捏造することは禁止されています。翻訳通訳業務がメインとなる場合には『技術・人文知識・国際業務』もしくは『特定活動(46号)』で申請することを検討してください。
在留資格『特定活動(46号・本邦の大学卒業者)』
在留資格『特定活動(46号・本邦の大学卒業者)』は、『技術・人文知識・国際業務』の業務内容に加えて、接客業務や調理業務が可能です。『技術・人文知識・国際業務』の場合は、研修期間としてしかレストランでの配膳や清掃業務はできませんでしたが、『特定活動(46号)』の場合は、フロントや企画・広報業務を行いながら、配膳などの接客や、清掃業務等を行うことが可能です。注意点として配膳や清掃のみの業務内容はできません。
在留資格『特定技能1号』
在留資格『特定技能1号』は、フロント、企画・広報、接客、レストランサービス等の宿泊サービスの提供を行うことが可能です。最大で5年間の在留にはなりますが、『技術・人文知識・国際業務』とは異なり、国籍(その人の母国語や公用語)を気にしたり、学歴は関係ありません。もし根本的に、現場での人員不足を解消したいのであれば、『特定技能』人材の雇用を検討されることをお勧めします。
求人票の業務内容から在留資格を特定したら、どのような人材であれば要件を満たしているのかを確認します。それぞれの在留資格に該当する要件は以下の通りです。
どの在留資格も、『学歴要件』『技能試験合格の要件』『日本語能力の要件』のいずれかが課せられます。ここから【在留資格的に】要件を満たしている(=採用していい人材)かどうかを見極めます。
宿泊業ならではの在留資格のポイント
各在留資格毎の業務内容を見比べても、はっきり言ってどれも同じように感じた方もいらっしゃるかと思います。しかし、見極めのポイントを抑えないと在留資格の許可は得られないため注意が必要です。見極めのポイントについて解説していきます。
- ホテル・旅館等において外国人が就労する場合の在留資格の明確化について
http://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/nyuukokukanri06_00070.html - 留学生の在留資格「技術・人文知識・国際業務」への変更許可のガイドラインhttp://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/nyuukokukanri07_00091.html
- 「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について
http://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/nyukan_nyukan69.html
国籍
国籍が特に重要になるのは『技術・人文知識・国際業務』の在留資格です。『技術・人文知識・国際業務』では、業務内容として単純な接客は認められていません。例えば通訳翻訳を行うなどの『国際業務』の要素が含まれている必要があります。ここで重要なのは、”何語”と日本語の通訳業務なのかということです。まず、ただ日本語で接客することは翻訳通訳ではありません。基本的には、母国語と日本語、もしくは公用語と日本語の通訳翻訳である必要があります。少しばかり英語が得意で英語が公用語でない場合、翻訳通訳業務と認めてもらえない場合があります。
このため、通訳翻訳業務として申請する場合、本当にそれを行うだけの業務内容があるのかを入管の審査官に説明しなければなりません。実際に、多くの場合で入管の審査官からは厳密に観光客の国籍比率を求められる場合があります。これによって翻訳通訳の業務量が不十分と感じられてしまった場合は不許可となってしまいます。
日本の観光客に多い国籍として、中国、韓国、アメリカなどになります。翻訳通訳業務をメインに行う場合、これらの言葉を母国語もしくは公用語としている国籍の人材である必要があります。
一方、営業や企画・広報スタッフ等で翻訳通訳を伴わない場合は国籍は関係ありません。この場合、学校で学んだことや今までの実務経験と実際に行う業務内容に関連がある必要があります。
「技術・人文知識・国際業務」
【不許可事例】「技術・人文知識・国際業務」ガイドラインより
本国で日本語学を専攻して大学を卒業した者が、本邦の旅館において、外国人宿泊客の通訳業を行うとして申請があったが、当該旅館の外国人宿泊客の大半が使用する言語は申請人の母国語と異なっており、申請人が母国語を用いて行う業務に十分な業務量があるとは認められなかったことから不許可となったもの
学歴要件
宿泊業は特に翻訳通訳業務と根深い業務が多く、外国人スタッフを採用する際にはそのことを前提することも多いのではないでしょうか。各在留資格には学歴要件がありますが、特に注意が必要なのが『技術・人文知識・国際業務』の在留資格で専門学校卒業生を採用する場合です。
最終学歴が専門卒の場合は、3年の実務経験がない場合は翻訳通訳業務はできません。ただし、専門学校で『翻訳通訳』を専攻していた場合は採用が可能です。これは単に「コミュニケーション科目」の中で数単位日本語を修得していたのでは足りず、多くの時間を語学の習得にあてていることが前提になります。「通訳翻訳技法」を学んでいない場合は、不許可のリスクが高い申請になります。
(「技術・人文知識・国際業務」)
【不許可事例】ガイドラインより
本邦の専門学校において服飾デザイン学科を卒業し、専門士の称号を付与されたものが、本邦の旅館との契約に基づき、フロントでの受付業務を行うとして申請があったが、専門学校における専攻科目と従事しようとする業務との間に関連性が認められないことから不許可となったもの
専門学校の場合は、特に勉強した内容と業務内容の関連性が求められるため丁寧に「採用理由書」で業務内容と勉強した内容の関連性の説明を行う必要があります。
特定活動(46号)の場合は、『技術・人文知識・国際業務』よりも幅広い業務に従事することができますが、一方で「日本の大学を卒業」し、「日本語能力検定1級を取得している」必要があります。
特定技能の場合は、学歴要件はありません。
業務内容とその比率について
業務内容毎の比率については、先述のガイドラインからだいたいが見えてきます。『技術・人文知識・国際業務』ガイドラインにも明記してある通り、付随業務としてレストラン業務、客室業務等などを行うことは認められております。
(「技術・人文知識・国際業務」)
【許可事例】ガイドラインより
観光・レジャーサービス学科において、観光地理、旅行業務、セールスマーケティング、プレゼンテーション、ホスピタリティ論等を履修した者が、大型リゾートホテルにおいて、総合職として採用され、フロント業務、レストラン業務、客室業務等についてもシフトにより担当するとして申請があったため、業務内容の詳細を求めたところ、一部にレストランにおける接客、客室備品オーダー対応等「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当しない業務が含まれていたが、申請人は総合職として雇用されており、主としてフロントでの翻訳・通訳業務、予約管理、ロビーにおけるコンシェルジュ業務、顧客満足度分析等を行うものであり、また、ほかの総合職採用の日本人従業員と同様の業務であることが判明したもの。
ポイントは2点です。あくまで現業は付随業務であり、主たる業務が「フロントでの翻訳・通訳業務、予約管理、ロビーにおけるコンシェルジュ業務、顧客満足度分析等を行う」であったこと、そして「ほかの総合職採用の日本人従業員と同様の業務」であるということです。
一方で不許可となった事例は以下の通りです。「技術・人文知識・国際業務」での申請であったのにもかかわらず専ら現業を行わせることが理由で不許可となっています。また、キャリアプラン通りの研修が行われておらず、その理由についても触れられていないことから、実態は専ら現業を行わせることが採用の目的と疑われて不許可となった事例もあります。
(「技術・人文知識・国際業務」)
本邦で商学を専攻して大学を卒業した者が、新規に設立された本邦のホテルに採用されるとして申請があったが、従事しようとする業務の内容が、駐車誘導、レストランにおける料理の配膳・片付けであったことから、「技術・人文知識・国際業務」に該当する業務に従事するものとは認められず不許可となったもの(「技術・人文知識・国際業務」)
【不許可事例】ガイドラインより
ホテルにおいて、予約管理、通訳業務を行うフロントスタッフとして採用され、入社当初は研修の一環として、1年間はレストランでの配膳業務、客室清掃業務にも従事するとして申請があったが、当該ホテルにおいて過去に同様の理由で採用された外国人が、当初の研修予定を大幅に超え、引き続き在留資格該当性のない、レストランでの配膳業務、客室清掃等に従事していることが判明し、不許可となったもの
外国人社員の採用面接で確認すべきポイント
当然気にするべきことは在留資格だけではありません。ここでは外国籍を採用する際のワンポイント解説をします。
外国籍の採用の場合、確認すべき点は日本人よりも多くなります。
日本人の採用の場合、選考時に確認するポイントは大きく分けて「能力」「スキル」「経験」「社風適合性」「勤務条件」です。プラスして独自の選考基準が各社にあるかと思います。外国籍の場合、加えて特に気を付けるべきは「在留資格」「国籍」「日本語能力」です。
理由は前述した通りの「在留資格」取得のためのポイントでもありますが、採用のマッチングのポイントでもあります。
社風適合性
外国籍の方はやはりそれぞれに”国民性”ではくくれない個性があります。これは採用において無視できない要素です。
しかし、だからと言ってこれらを丸っきり無視するわけにはいきません。外国人と日本人の考え方で差異が出がちな部分として「日本や自社に対する印象・イメージ」、「キャリアビジョン」が挙げられます。新卒の場合は特に、「日本に何年ぐらいいるつもりなのか」といったことも聞かれるとよいです。
価値観の違いを放置するのは、お互いのためにもよくありません。「お国柄だから」と蔑ろにするのではなく、採用後に予定したチームへ配属した際に、”チームに馴染んでいる”イメージを持てる人材を採用することが必要です。
日本語能力
日本語能力の注意すべき点として、「職務遂行」・「社内コミュニケーション」のフェーズに分けて必要なレベルを見極める必要があります。
まず「職務遂行」に関しては、その通りではありますが新入社員の配属先で必要な業務内容を遂行するレベルの日本語能力が備わっているかについてです。
日本語能力はしっかりと必要なレベルを把握する必要があります。日本語と言っても「読み」「書く」「話す」の全ての要素でどの程度必要なのかを予め実際に働く日本人の方含めてすり合わせをしておく必要があります。
次に「社内コミュニケーション」については、日本語能力の認識の違いによるコミュニケーション不足は離職理由の大きな理由のひとつにもなっています。
外国人材で離職してしまう大きな理由の一つで「コミュニケーションがうまく取れない」といったことが挙げられます。仕事を教えようにも言葉の壁でうまく教えられないといったことや、逆に外国人サイドから悩みを打ち明けようにも相談できる相手がいないといったこともあります。
ただし、あまりに高い日本語能力を求めると門戸を狭くしてしまいます。優先すべきなのが「技術や能力」・「人柄」なのか「日本語能力」なのか明確に基準を求めておきましょう。
必ず、チームメンバーや働くシーンを想定しながら日本語レベルを確認するようにしましょう。また、能力や人柄は申し分ないけれども、日本語能力だけが気になる場合、入社後のフォロー体制を事前に構築することで課題をクリアにすることもできます。
内定後の手続き
外国籍の場合、内定後すぐに就職できるわけではないため注意が必要です。すでに就労可能な在留資格をもっていない場合は、在留資格の取得もしくは変更申請が必要です。この在留資格の手続きには、審査期間があることから数か月かかることがあります。
新卒の場合、内定を例えば卒業前の6月に出していたとしても、在留資格の変更申請は例年12月からしかできません。
※学校卒業前であっても、すでに学歴要件を満たしていて学校を中退する場合はいつでも申請可能です。
また、手続きは「内定後~入社前」と「入社後」に大きく分かれます。
在留資格取得のための手続き ~在留資格の申請・入社後の手続き~
留学生の場合、在留資格の手続きは基本的に必要になります。また中途採用であっても、内定者が日本にいるか海外にいるかによって提出する申請内容が異なります。
- 内定者が海外にいる場合
- 国内の留学生の場合(新卒採用)
- 中途採用の場合
①の場合は、「在留資格認定書交付申請」を行います。就職先の会社の人が代理人となって申請をします。認定証明書が発行されたら母国にいる本人に郵送し、本人が査証に変えて入国することになります。
②の場合は、「留学」ビザから切り替えを行う場合は、「在留資格変更許可申請」を行います。注意点としては、申請結果の許可が下りて在留カードの切替が完了してからでないと就労できません。審査期間も半年に及ぶ場合があります。間違っても見切りで入社することが無いようにしてください。また、『高度専門職1号』『特定活動(46号)』『特定技能』の場合は、就業先まで指定される在留資格であることから、転職した際には入社前には「在留資格変更許可申請」が必要になります。
③の場合で、既に持っている在留資格が『技術・人文知識・国際業務』の場合は在留資格の変更手続き等は不要ですが、宿泊業で現場研修がある場合は「就労資格証明書」を取得されることをお勧め致します。「就労資格証明書」があることで、堂々と現場で業務をさせることができ会社や外国人材を守ることができます。
※既に身分系の在留資格を持っている場合は特に「在留資格変更許可申請」などの手続きは不要です。
どこで申請するのか
基本的に申請は申請人の居所を管轄する入管、もしくは受入れ予定の企業の所在地を管轄する入管で行います。
申請先については下記の通り 決まりがあります。
居住予定地もしくは受入れ機関の所在地を管轄する地方出入国在留管理官署
【在留資格変更許可申請 or 在留期間更新許可申請】
住居地を管轄する地方出入国在留管理官署
地方出入国在留管理官署 | 管轄する区域 |
---|---|
札幌出入国在留管理局 | 北海道 |
仙台出入国在留管理局 | 宮城県、福島県、山形県、岩手県、秋田県、青森県 |
東京出入国在留管理局 | 東京都、神奈川県(横浜支局が管轄)、埼玉県、千葉県、茨城県、栃木県、 群馬県、山梨県、長野県、新潟県 |
名古屋出入国在留管理局 | 愛知県、三重県、静岡県、岐阜県、福井県、富山県、石川県 |
大阪出入国在留管理局 | 大阪府、京都府、兵庫県(神戸支局が管轄)、奈良県、滋賀県、和歌山県 |
広島出入国在留管理局 | 広島県、山口県、岡山県、鳥取県、島根県 |
福岡出入国在留管理局 | 福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、熊本県、鹿児島県、宮崎県、 沖縄県(那覇支局が管轄) |
分局が近くにない場合には、最寄りの支局や出張所での申請も可能です。ただし、支局や出張所次第では在留資格の申請を受け付けていない場合もあるため確認が必要です。
▶出入国在留管理庁:管轄について
誰が申請をするのか
基本的には、申請人(外国人)本人が申請人の住居地を管轄する入管に申請に行きます。
申請人が16歳未満の子どもの場合は、法定代理人(父母等)が代理人として申請することができます。
また、申請人が海外にいる場合には、申請人(外国人)を受け入れようとする機関の職員その他の法務省令で定める者が、代理人として申請を行うことができます。
この場合、代理人は申請書に名前を記載する代表取締役などに限らず、受け入れる機関の「職員」であれば問題ありません。また、グループ会社の人事関連業務を行う会社の職員も含みます。
一方、届け出を行っている「取次者」であれば、申請を代わって行うことができます。
「取次者」の例として、雇用されている・所属している機関の職員、行政書士、弁護士、 登録支援機関の職員がなることができますが、一定の研修を受けて登録された人のみになります。
今までは、原則「申請人の居住地を管轄する住所を管轄する入管」でしか申請は認められていませんでした。
しかし、ルールが変更となり申請人(外国人)が受け入れられている又は受け入れられようとしている機関の所在地を管轄又は分担する出入国在留管理官署においても認められるようになりました。
例えば、福岡に住む留学生が東京の会社に内定をもらった場合、以前は、福岡入管(もしくは管轄する出張所)のみでしか申請できませんでしたが、今後は内定先のある東京出入国在留管理局での申請も認められます。
※このルールは取次者証明書が交付された人(公益法人の職員や弁護士や行政書士等)についても認められます。
在留資格の申請時の注意点
宿泊業における外国人雇用は選択できる在留資格が複数あり、それらを正しく選択する必要があるため、難易度が高いと言えます。知らず知らずのうちに不正をしてしまわないためにも注意が必要です。
在留資格の手続きを本人・人材会社・行政書士に丸投げしないで
在留資格の手続きを、絶対に本人や人材会社、行政書士に丸投げにしないでください。
2020年12月の法改正により申請書類の社判が不要になりました。会社の規模によっては在留資格の手続きに必要な書類がほとんど求められないこともあり、また社判押印が不要となたため、極論、外国人留学生や人材会社、行政書士だけで採用担当者が関わることなく申請が可能となりました。
このため、会社で必要な書類を準備したとしても、提出前の確認をしなければ本人がどんな申請をしているか分かりません。
在留資格の手続きにおいて「知らなかった」は通用しません。許可を受けずに在留資格で認められた活動の範囲外を超えて行う就労は「不法就労」に値します。また、在留資格の許可を得るため嘘の内容を申請することは「虚偽申請」です。留学生は、在留資格を取得できなければ日本にいられません。また、日本にいる同じ国籍のネットワークでは様々な情報が錯そうしています。そうでなくても、日本語能力不足・思い込み・勘違い等で誤った内容の申請をする可能性は十分にあります。つまり、悪気もなく虚偽申請を行ってしまうこともあるということです。この場合に企業は「知らなかった」では通用しません。内容を確認してから提出させてください。
残念ながら人材紹介会社、行政書士の中には”許可を得るためだけのテクニック”を駆使して手段を選ばずに許可を得る人もいます。そしてたちが悪いことに悪意もなく「お客様のため」と勘違いをしている人がいるのも事実です。(当然、全員ではないです。)
必ず申請内容は申請前に確認をして下さい。そして実際と違うことが書いてある場合には、疑問に持ち訂正をするように指示しましょう。
【虚偽申請に対する罪名】
不利益な事実を隠したり、嘘の内容の申請をすることは虚偽申請になります。
この場合「在留資格等不正取得罪(入管法70条1項)」「営利目的在留資格等不正取得助長罪(入管法第74条の6)」という刑罰が課され、3年以下の懲役・禁固若しくは3百万円以下の罰金、またはこれらが併科されます。
【在留資格の範囲外の業務に対する罪名】
不法に入国したり、在留期間を超えて不法に在留したりするなどして、正規の在留資格を持たない外国人を行う就労のこと。また、正規の在留資格を持っている方でも、許可を受けないで在留資格で認められた活動の範囲を超えて行う就労についても不法就労に該当します。
この場合、「不法就労罪(入管法第73条の2)」「不法就労助長罪(入管法第73条の2)」という刑罰が課され、3年以下の懲役・禁固若しくは3百万円以下の罰金、またはこれらが併科されます。
不法就労についての詳細はこちら→警視庁『外国人の適正雇用について』
こんな申請には注意して下さい
宿泊業においては、人ありきで在留資格を後から当てはめてもうまくいかない場合が多いです。必ず、採用目的に合わせた在留資格を選んでから人材の選考・内定出しを行ってください。
『技術・人文知識・国際業務』では、研修期間や付随業務としてでレストランでの配膳や清掃スタッフを行うことが認められていますが、これは無条件に認められるものではありません。下記のポイントを守らなければ、不法就労に該当して罰せられる可能性があります。本当によく注意してください。
その場しのぎで研修計画を作成しても、後に困るのは会社と外国人材です。
- 現場作業を行うことを、正直に申請書に記載する
⇒その際に、「どのくらいの期間」行うのかを明確に「キャリアアッププラン」等で示す。
日本人も同様に行う計画であることをきちんと示す - どのくらいの期間認められるかは、業種や企業規模によって違う
⇒隣の企業で認められても、同じ計画を提出したところで認められない場合もある - 実態通りに申請をする
⇒実際のところよく考えたら「現場作業員」が欲しいのであれば、「総合職採用」をやめて「特定技能」の人員を採用することも検討しましょう。無理して申請をしたところで、採用側も配属先も本人もよいことはない
入社後の手続き
入社後に必要な手続きは以下の3点です。
- 【企業】雇入れた翌月10日まで『雇用保険被保険者資格取得届』を提出
※雇用保険の被保険者でない場合:雇入れた日の属する月の翌月末日までに『外国人雇用状況届出書』を提出 - 【外国人】転職の場合は入社後14日以内に『所属機関に関する届け出』を提出
- 【企業/外国人】在留期限の3か月前から在留期限までの間に、『在留期間更新許可申請』を提出
上記のような在留管理以外は、原則日本人と同じになります。例えば、労働保険(労災保険・雇用保険)、社会保険(健康保険・厚生年金)に加入し、所得税や住民税も課税されます。
まとめ
以上、宿泊業において外国籍の人材を社員として採用するためのポイントを解説しました。
宿泊業は、就労ビザでは「技術・人文知識・国際業務」「特定活動(46号)」「特定技能」「高度専門職1号(ロ)」が該当します。それぞれの在留資格の特徴を見極め、たうえで採用活動を行う必要があります。ポイントを抑えて正しく申請をすることで、研修期間や付随業務として現場での業務も可能です。虚偽申請は絶対にダメです。
【行政書士からのアドバイス】
宿泊業は、複数の“就労ビザ”から選択することができ、どれを選べばいいか分かりにくいのが特徴です。必要な人材像は事業場によってもそれぞれです。当事務所では在留資格(ビザ)の申請サポートだけでなく、外国人採用に関するアドバイスも行っております。お気軽にお問合せ下さい。