建設業で「特定技能1号」の方を雇用を検討する場合、初めての場合は、会社の状況次第では在留資格(ビザ)申請以前に多くの準備が必要です。母国で建設業で働かれていた経験がある方や、技能実習2号や3号で研修していた人材は、即戦力になり、また比較的若い方が多いことから魅力的ですが、一方で受け入れる体制が整っていない場合、受け入れまで費用が発生する場合があります。これは、特別に準備をする必要がない企業から、受入までに100万円近くかかる企業もあり、検討にあたってまずは1人当たりの雇用にかかるコストを把握することは大切です。
外国人雇用は日本人の雇用よりもコストがかかります。本編では想定される費用に着目して解説します。
特定技能を受け入れるためにかかる「お金」について
「特定技能1号」の人材を雇用する場合は、新規入国の場合でも国内にいる方の転職希望者の場合でも、「建設業特定技能受入計画」の認定を受ける必要があります。特に、初めて・1人目の外国人を雇用する場合、認定を受けるための社内基盤の確認と総点検が必要です。これは場合によってはかなりのコストになります。
本来満たすべき社内基盤の確認と整備
大前提ですが、「特定技能1号」の人材を雇用するにあたり、法令順守が求められますが、遵守すべきは入管法だけではありません。労働関係法や社会保険法、租税法など、外国人雇用以前に会社として守るべきルールは守られていないことは、そもそも「特定技能1号」の人材を雇用することはできません。
社会保険関係について
厚生年金・健康保険の適用事業者である場合は加入が必要です。
また、すでに従業員を雇用している場合には、労災保険、雇用保険へ必要に応じて加入が必要です。
賃金台帳・タイムカード(出退勤の管理)の整備
賃金台帳とは、従業員に支払う賃金(給与)の支払状況を記載する書類をいいます。あわせて、労働時間を正確に管理するためのツールの整備は必要です。特定技能を受け入れている場合に、入管やFITSという団体が監査に来ますが、その際によく確認される項目として時間外労働の割増賃金の計算がきちんとされているかがあります。
もし、きちんと時間外労働を管理・支払いできる体制がない場合は、社労士などに給与計算を外注する体制を構築するなど、整備が必要になります。
36協定などの労使協定の締結
時間外労働(残業)がある場合には、労使協定が必要です。労使協定は労基署に提出をする手続きになります。
就業規則・賃金規定の整備
就業規則や賃金規定は、従業員が常時10人以上(※)いる事業場であれば作成し、過半数組合または労働者の過半数代表者からの意見を添付し、諸葛労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。
※ 時としては10人未満になることはあっても、常態として10人以上の労働者を使用している場合も当
てはまります。なお、労働者の中には、パートタイム労働者やアルバイトなども含まれます。
特定技能の要件を満たすために行う手続きについて
次に、特定技能の要件を満たすため・建設業受入計画の認定を受けるために必要な準備になります。例えば、現在1人親方の場合で、従業員を雇用したこともなく、売り上げ規模的にも以下の項目が整っていない場合でも合法に取引できている状態であっても、受け入れのために準備をしなければならないことになります。
建設業許可の取得
特定技能人材を雇用するためには、事業者は建設業の許可が必要です。
事業規模的に許可がない場合で、合法に差し支えなく営業ができている場合であっても必要になります。この場合、取得する建設業許可は、雇用して従事してもらいたい職種と同じでなくても大丈夫です。例えば、外国人にとび職についてもらいたい場合でも、建設業許可は「とび・土工工事」でなくても問題ありません。
すでに取得している場合で受入計画の申請前に更新が完了していなければなりません。
もし、新たに建設業許可を取得する場合には、以下の法定費用が発生します。手続きを行政書士などに依頼する場合には、下記に加えて別途費用が発生することになります。
新規取得(法定費用) | |
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知事許可の場合 | 90,000円 |
大臣許可の場合 | 150,000円 |
新規取得(法定費用) | |
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知事許可の場合 | 90,000円 |
キャリアアップシステムの登録
建設キャリアアップシステムとは、技術者ひとり一人の就業実績や資格を登録し、技能の公正な評価、工事の品質向上、現場作業の効率化などにつなげるシステムです。2023年度を目標として、あらゆる工事現場で完全実施をする計画で導入が進められています。特定技能に関しても、制度の周知と導入の徹底の意味も含めて建設キャリアアップシステムの導入が求められています。加入は建設会社と技能者の双方に求められますので、現在従業員が1人もいない場合でも、受入計画の認定のためには事業者登録が必要です。この登録には登録料が発生します。
●技能者登録料
申請方法 | 登録料(税込) |
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インターネット |
(1)簡略型:2,500円 (2)詳細型:4,900円 |
認定登録機関 | 詳細型:4,900円 |
●事業者登録料
資本金 | 登録料(税込) |
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1人親方 | 0円 |
500万円未満(個人事業主含む) | 6,000円 |
500万円以上1,000万円未満 | 12,000円 |
1,000万円以上2,000万円未満 | 24,000円 |
2,000万円以上5,000万円未満 | 48,000円 |
5,000万円以上1億円未満 | 60,000円 |
1億円以上3億円未満 | 120,000円 |
※上記以上 | 資本金額に応じて240,000円~2,400,000円 |
▶「建設キャリアアップシステム」についてはこちら
一般社団法人建設技能人材機構(JAC)への加入
建設業で特定技能を雇用する場合、一般社団法人建設技能人材機構(JAC)へ直接・間接的に加入をする必要があります。
このJACという機関は、建設業に昔からあった問題である「劣悪な労働環境」や「低賃金」「失踪」「社会保険未加入」などの労働環境の改善や、人材確保の国際競争力の向上を目的に設立された機関です。
JACの会員になるためには2つの方法があります。
●JAC正会員である建設業者の団体会員になる方法
JACの正会員である建設業者団体は、多くの場合は全国組織です。この正会員である建設業者の団体の会員になることで間接的にJACの正会員になることができます。この場合、JACへの加入費用は発生しない代わりに、この団体への会員になるための費用が発生することになります。
※JACの正会員は以下49団体です(令和5年8月8日現在)
▶正会員の情報についてはこちら
JACの入会金は発生しませんが、受入負担金は発生します。
対象となる特定技能外国人の別 | 1人あたり受入負担金の月額 |
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海外試験合格者(JACが指定する海外教育訓練を受ける場合) | 20,000円(参考:年額24万円) |
海外試験合格者(JACが指定する海外教育訓練を受けない場合) | 15,000円(参考:年額18万円) |
国内試験合格者 | 13,750円(参考:年額16万5千円) |
試験免除者(技能実習2号修了者等) | 12,500円(参考:年額15万円) |
上記は、後述する「登録支援機関」への支援に関する委託費とは別に発生する金額です
●賛助会員になる
正会員である建設業者団体に属さない場合には、直接JACへ賛助会員として加入することができます。建設業者の団体に参加できない場合や、属している団体がJACの会員でない場合は賛助会員として直接加入しなければなりません。
正会員である建設業者の団体の会員になる場合と異なり、年会費が発生します。加えて、受入負担金が発生します。
年会費 | 240,000円 |
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対象となる特定技能外国人の別 | 1人あたり受入負担金の月額 |
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海外試験合格者(JACが指定する海外教育訓練を受ける場合) | 20,000円(参考:年額24万円) |
海外試験合格者(JACが指定する海外教育訓練を受けない場合) | 15,000円(参考:年額18万円) |
国内試験合格者 | 13,750円(参考:年額16万5千円) |
試験免除者(技能実習2号修了者等) | 12,500円(参考:年額15万円) |
登録支援機関への支援に関する委託
「特定技能1号」を雇用するにあたって、支援計画書というものを作成し、外国人の公私の生活をサポートする支援を行うことになりますが、この支援については自社で行うか、「登録支援機関」に委託するかのどちらかになります。自社で支援する場合、どのような会社でも支援できるわけではなく、一定の規模や組織の条件があります。要件を満たしていない場合は、「登録支援機関」に委託をしますが、これは前述したJACとは別の団体になり、JACに支払う月々の費用とは別に月額の支援料がかかる場合があります。
特定技能1号人材に対する義務的支援を受入企業から委託を受けて実施する機関です。技能実習制度の監理団体や、人材紹介会社、行政書士が登録を受けています。2023年8月現在、約8600事業者の登録があります。
▶参考:出入国在留管理庁『登録支援機関登録簿』
民間の団体であるため、支援料は企業によりますが、目安の金額は以下の通りです。
登録支援機関 |
月額:10,000~30,000円(大体の相場) |
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※繰り返しになりますが、必ず利用をしなければならない機関であるという訳ではありません。
受入れ後にかかるお金について
受入までにご説明した事項は、受入後も満たし続ける必要があります。社会保険の支払いやJACの年会費などは雇用後も発生し続けます。
また、建設業の場合、雇用後にFITSという団体の「建設特定技能受入後講習」の受講が必要です。受講は外国人本人がします。
以前は有料でしたが、現在(令和5年3月1日以降)は無料のようです。
受入後講習 | 無料 ※2023年8月時点 |
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▶FITS:2023年度「建設特定技能受け入れ後講習のご案内」
建設業受入計画の認定を受けるための雇用条件について
ここまでは受け入れをする企業の体制について説明をしてきました。建設業で特定技能1号を受け入れるにあたり、独自のルールがあります。本章では雇用条件について説明します。
建設業では労働人口の減少の影響を大きく受けている業界です。国籍を問わず離職率は高く、また技能実習生の失踪の要因の一つに賃金を含む適切な就労環境が確保できていないこと、また、頻繁に現場が変わることの弊害による技能に見合った給料を得られにくいといったことが挙げられます。
この課題を解消するためにも建設業分野では給料について3つの条件があります。
- 同等の技能を有する日本人と同等額以上
- 安定的な賃金の支払い
- 技能習熟に応じた毎年の昇給
一つ一つにいて解説をしていきます。
同等の技能を有する日本人と同等額以上である
給料について、について建設告示において下記のとおり定められています。
同等の技能を有する日本人が従事する場合と同等額以上の報酬を安定的に支払い、技能習熟に応じて昇給を行うとともに、その旨を特定技能雇用契約に明記していること
建設告示3条3項2号
まず、賃金規定がある場合はその規定に則って賃金を決めることが必要です。賃金規定がない場合には、社内の同等技能の日本人技能者と比較をします。技能実習2号修了者の場合は、3年以上の経験を有する者として扱われることになり、技能実習生の時よりも給料が上がるだけでなく、同等の経験を持つ日本人と比較しながら適切に給料を決める必要があります。
日本語能力や国籍を理由に給料を不当に低くするようなことはできません。
受入計画の申請では具体的に日本人従業員の方と給与の比較を行いますが、この比較した日本人の給料が地域別最低賃金に1.1を乗じた金額より下回っているときは、同等以上の給料であったとしても、要件の一つである「適切な国内人材確保の取組を行っている」ということが認められず計画の認定は得られません。また、同時に特定技能人材の給与は地域別最低賃金に1.1を乗じた金額より上回っている必要があります。
さらに、同一圏域における建設技能者の賃金水準とも比較をします。各都道府県労働局において公表されているハローワークの求人求職賃金を参考にします。これは、同じ地域の同業と比較して明らかに低水準の給与設定となっている場合は人手が確保できなくても仕方がなく、これを理由に外国人人材を雇用するということを防ぐためです。
安定的な賃金支払いをすること
特定技能人材の場合、天候や受注状況によって報酬(基本給)が大きく変動しない支払方法(月給制)の採用が必要です。ほかの日本人が日給月給の場合であっても、日給月給は認められていません。
過去の失踪理由の一つに、月給制でないことから安定的に給与が支払われず不安を感じてしまう、という問題がありました。建設業の特徴として、季節や工事受注状況による仕事の繁閑により予め想定した報酬予定額が下回ることがあることがありますが、特定技能人材を受け入れる場合は、離職や失踪を避けるためにも月給制を採用しなければなりません。
建前上の「月給制」というのは認められず、会社として仕事があっても無くても支払う必要があります。
天候や受入企業の責めに帰すべき事由による休業の場合には、休業手当(平均賃金の60%以上)を支払うことは認められています。
日本人が月給制でない場合でも、特定技能人材に関しては月給制でなければなりません。そしてこの場合、同等の技能を有する日本人の技能者に実際に支払われる1か月当たりの平均的な報酬額と同等でなければなりません。
技能習熟に応じた昇給体制があること
建設業・特定技能人材との雇用契約では、技能の習熟度に応じて昇給を予定し、昇給付きを明確にし、毎年昇給することが求められます。その昇給の予定額や昇給条件を雇用契約書に記載し、また「重要事項事前説明書」において申請人に分かる言語で説明をすることが求められます。習熟度を示す指標に、実務経験年数や資格、また建設キャリアアップシステムにおける能力評価などを活用します。
この昇給は、1年あたりに見込まれる1か月当たりの賃金の上昇額が千円未満である場合には、定期昇給とは認められず計画は認定されません。
建設業で特定技能を雇用するための方法について
ここまでに、特定技能人材を雇用する場合には環境が整っていない場合は「とにかくお金がかかる」という話をしてきました。
建設業では技能者を雇用するにあたり、「有料」職業紹介事業者の斡旋は違法ですので、「無料」職業紹介事業者から紹介を受けるか、知人の紹介やハローワークなどで募集をするなどの自社採用の方法を取られてください。
法律をよく知らない「有料」職業紹介事業者はたくさんいますので、もし営業を受けた際には気を付けてください。なお、「有料」職業紹介の免許を持っている会社が「0円」で人材の紹介をすることも、無免許に変わりありませんので、紹介を受けることはできません。
ここでは、詳しい人材募集の流れやビザの手続きについては説明しておりません。下記の記事に詳細に説明しておりますので、詳しく知りたい方は下記をご参照ください。
当事務所のサポートの範囲について
ここまでに見てきた通り、建設業で特定技能の方を雇用する場合は、たくさんの確認事項や整備事項があります。日本国内に在住する転職希望の方や、技能実習からの変更を検討する場合には、在留期限がありタイムリミットがあります。このため、かなり段取りよく準備と手続きを進めていかなければなりません。
当事務所では、多くの建設業様での特定技能1号の在留資格の変更サポートを行ってきました。豊富な実績から、なるべくスムーズに「特定技能1号」の切り替えができるようサポートを致しております。
ご相談のご案内(有料相談)
建設業で特定技能人材を雇用するためのネットの検索だけではわからない有益な情報を提供いたします。建設業の特定技能人材の雇用をする場合には、しっかりとした準備を行ったうえで段取りよく手続きを進めていく必要があります。検討段階からご相談をいただくことをお勧めしておりますが、ご相談は当事務所では有料相談にて承っております。
ご相談 | 60分 5,500円(税込) ※相談方法:Zoom等を利用したオンライン相談、池袋の事務所 |
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有料相談後にお手続きをご依頼いただいた場合には、上記相談料は着手金に充当します。(実質無料)
ご相談後に営業をすることは一切ありませんので、お気軽にご利用ください。
建設業特定技能受入計画認定申請のサポートについて
国土交通省に対する建設業特定技能受入計画認定申請のサポート料金は下記になります。
初めて申請する場合 | 1社あたり:88,000円(税込) |
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2名以降追加 | 1名あたり:11,000円(税込) |
在留資格(ビザ)申請のサポートについて
入管に対する在留資格の申請のサポート料金は下記の通りです。
在留資格認定証明書交付申請 (海外から呼び寄せる場合) |
1名あたり:88,000円(税込) |
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在留資格変更許可申請 (転職をする場合) |
1名あたり:88,000円(税込) +収入印紙(4,000円) |