「『技術・人文知識・国際業務』で“できる仕事”は何ですか?」とご質問をいただくことがありますが、実は簡単に「これ」とお伝え出来ない質問です。
外国人労働者にはさせてよい仕事とそうでない仕事があります。そして、それらは「在留資格」によっても変わります。判断を慎重にならなければならない代表的な業務内容に、「単純労働」やマニュアルや訓練によって習得可能な「技能的な業務」があります。ただし、例えば技術・人文知識・国際業務という在留資格の場合、研修期間内など特定のシーンでは認められる場合もあります。しかしこの制度を悪用することはオススメできません。本編では、この現場研修の考え方を中心に外国人労働者が従事可能な業務内容について解説します。
外国人は「在留資格」によってできる業務内容が決まっている
日本に在留する外国人は、「在留資格」を持って在留しています。これは、活動の目的や身分などに合わせて与えられますが、特に“就労ビザ”ではそれぞれの在留資格毎に従事可能な業務内容が細かく決められています。
そもそも在留資格とは
「在留資格」とは、外国人が合法的に日本に上陸・滞在し、活動することのできる範囲を示したものです。2022年7月現在29種類の在留資格があります。在留資格は「ビザ」という名称で呼ばれることが多いです。
在留資格は、活動内容や身分(配偶者・子など)によって割り当てられています。日本に滞在するすべての外国人が、何かしらの在留資格を持っているということになります。よって、外国人は活動内容や身分(ライフスタイル)に合わせて、在留資格を変更しながら日本に滞在することになります。
在留資格の一覧は下記になりますが、言い換えると以下に当てはまるものがない場合は、日本での滞在はできないということになります。
“就労ビザ”とは
日本の在留資格制度では、「就労ビザ」という名前のビザ(在留資格)はありません。活動内容毎に在留資格が定められており、19種類の就労系の在留資格と、就労が認められる「特定活動」(活動目的は十数種類)があります。在留資格毎に可能な業務内容(活動内容)の範囲が定められているため、日本に存在するすべての職種であっても働くことができる、という訳ではありません。よって、業務内容次第では、その職種自体に就くことが日本では制度的にできないということもあります。
そして、それぞれの在留資格には「要件」があります。その在留資格を取得できるかは人材の「職歴や学歴」などが関わってきます。また、就労する場所についても必要な場合には許認可の取得が求められることもあります。
“就労ビザ“は、「どこで」「だれが」「どのような業務をするのか」という3つのポイントがリンクすることで初めて「許可」されるものになります。どれか一つでも欠ける場合は「要件を満たさない」ということになり就労ビザの許可は得られません。
一方で、「身分・地位に基づく在留資格」は活動制限がありません。
「身分・地位に基づく在留資格」には『永住者』『日本人の配偶者等』『永住者の配偶者等』『定住者』の4種類があります。身分系の方に関しては、在留資格が維持できる限り日本人と同様に制約なく働くことができます。
不法就労でよくニュースになっているは高度人材・「技術・人文知識・国際業務」
最近、よくニュースで目にする「不法就労」によって外国人が逮捕されたり、経営者が「不法就労助長罪」で逮捕されるというものには、「そもそも日本にいることすらできない人を雇用している」場合や、「資格外の活動(違法な働き方)をさせている」という大きく分けて2つのパターンがあります。実は思っている以上に身近な不法就労は後者の方で、これは「資格外活動違反」と呼ばれるものです。
在留資格『技術・人文知識・国際業務』はどのような在留資格なのか
それぞれの在留資格ではそれぞれに決められた活動・業務内容があり、その内容から逸脱するとそれは「資格外活動」に該当します。『技術・人文知識・国際業務』で認められる活動範囲は下記のように定められております。
もっとざっくりに説明をすると、『技術・人文知識・国際業務』はこのような在留資格になります。
できる業務としては、以下のようなものが代表的な例になります。
- システムエンジニア
- 精密機械器具や土木・建設機械等の設計・開発
- 生産管理
- CADオペレーター
- 研究者
- 法人営業
- マーケティング
- 企画・広報
- 経理や金融、会計などの紺たる譚と業務
- 組織のマネージャー
- 翻訳通訳
- 語学の指導
- 海外取引業務
- 海外の感性を活かしたデザイン
- 商品開発
※分かりやすく3つのブロックに分けていますが、一つの在留資格内でこれらの業務を複合的に行うことや、人事異動や転職などによって異なる業務をすることは問題無く可能です。
繰り返しになりますが、「単純作業」、「訓練で習得する業務」、「マニュアルがあれば遂行可能務」は在留資格『技術・人文知識・国際業務』では従事は、原則できません。これらの業務内容は「資格外活動」となり、この「資格外活動」を行うことは「不法就労」に該当します。
「技術・人文知識・国際業務」のガイドライン内には、下記の業務は「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当しない活動と例示されています。
飲食店での接客や小売店の店頭における販売業務工場のライン業務等
この他にも、典型的な該当しない例として、建設現場での技能者として作業を行う場合、物流倉庫内でのピッキングなども該当します。
「資格外の活動」は「不法就労」に該当する場合がある
「資格外活動」の「資格」は「在留資格」を指します。つまり、それぞれの「在留資格」で定められた範囲外の活動・業務内容は「資格外活動」に該当し、就業する場合には事前に「資格外活動許可」を得る必要があります。
「資格外活動」の3つのパターンについて
まず、「不法就労」に該当するパターンには以下のようなケースがあります。
②出入国在留管理局から働く許可を受けていないのに働くケース
③出入国在留管理局から認めたられた範囲を超えて働くケース
1については、密入国者や在留期限の切れた人(オーバーステイ)の人が該当します、また、退去強制されることが既に決まっている人も該当します。
2については、そもそも持っている在留資格(ビザ)で就労が認められていないのに働くケースが該当します。たとえば、観光目的の短期滞在ビザで入国した人や、留学生や難民認定申請中の人が「資格外活動許可」を得ずに働くケースが該当します。
3については、在留資格で認められている活動内容・業務内容の範囲を超えて働く「資格外活動」や、認められたアルバイト就業時間以上に働く「オーバーワーク」が該当します。
よくニュースで見るケースはどこがよくないのか
例えば、在留資格『技術・人文知識・国際業務』の外国人に「工場でライン作業をさせた」「飲食店で接客や配膳をさせた」「建設業で技能者として働かせた」ことが原因で、外国人や経営者が逮捕された、というニュースをよく見ますが、これらは前項で挙げた「③出入国在留管理局から認めたられた範囲を超えて働くケース」に該当します。
在留資格『技術・人文知識・国際業務』では、「単純作業」、「訓練で習得する業務」、「マニュアルがあれば遂行可能務」はできないと説明しましたがこれに該当することになり、つまりは「不法就労」になってしまいます。
いつの時でも忘れてはならないのは“就労ビザ”を持っていれば、何の仕事をさせてもよいという意味では無いということです。
不法就労は「知らなかった」では済まされません。
これらのことは、例え受入企業が申請などに関わっていない場合や、外国人の言ったことを信じて事実確認を怠った場合などであっても罰則の対象になります。つまり「知らなかった」ではすまされません。
不法就労を行った外国人は退去強制の対象になります。
また、不法就労者を雇用していた場合は「不法就労助長罪」として、3年以下の懲役・300万円以下の罰金となります。説明したように、オーバーワークの留学生を雇用することは「不法就労助長罪」に該当します。アルバイトの時間数の管理を外国人任せにすると知らず知らずのうちに該当する場合があります。
当然、不法就労者を雇用することを隠すためにハローワークへの届け出を怠った場合や、虚偽の届け出を行った場合も30万円以下の罰金となります。さらに、在留資格(ビザ)を取るために虚偽の申請を行った場合も3年以下の懲役・300万円以下の罰金です。
外国人の在留資格(ビザ)に関する申請や外国人の雇用に際しては、しっかりとした準備や確認を行わなければ、厳しい罰則の対象となります。
【補足】留学生や主婦・夫のパート・アルバイトにできる仕事に決まりがあるのか
留学生や主婦・夫の方などは「資格外活動許可(包括許可)」を取ることで決められた時間制限無いであればパートやアルバイトが可能です。留学生や主婦・夫の方が取得する「資格外活動許可(包括許可)」では、定められた時間制限無いで風営法で規制のある事業所でなければ、「単純作業」、「訓練で習得する業務」、「マニュアルがあれば遂行可能務」が可能ですので、工場でのライン作業や、接客や配膳などに従事可能です。
そもそも、留学生(在留資格「留学」)や主婦・夫(在留資格「家族滞在」)で在留している人は、アルバイトやパートを許可なくすることは禁止されているため、収入や報酬を得る活動を行おうためには「資格外活動許可」が必要になります。留学生や主婦・夫の方が取得する「資格外活動許可」の多くのケースで「包括許可」が該当し、この許可を取ることで定められた時間制限無いで風営法で規制のある事業所でなければ、アルバイトやパートが可能です。
※留学生や主婦・夫の場合であっても、内容に合わせて、「資格外活動許可・個別許可」を取る必要がある場合があります。上記は一般的な例になります。
▶参考:出入国在留管理庁『資格外活動許可について』
在留資格『技術・人文知識・国際業務』では実務研修が認められる場合がある
在留資格「技術・人文知識・国際業務」では、一定の場合に限って「技術・人文知識・国際業務」で認められている範囲外の活動を行うことを認めています。
技術・人文知識・国際業務で認められる実務研修とは
日本では入社後しばらく研修の一環で「実務研修」を行う企業が少なくありません。しかし、その実務研修の内容が「技術・人文知識・国際業務」で認められる範囲外の活動に該当する場合もあります。そうはいっても、外国籍従業員だけ現場研修をさせない、という訳にはいかないと思います。
この様な企業の実情を加味して、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で許容される実務研修についてガイドライン:「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について言及がされています。
▶参考:「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で許容される実務研修について
外国人が「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で在留するためには、当該在留資格に該当する活動、すなわち、学術上の素養を背景とする一定水準以上の業務に従事することが必要です。
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で許容される実務研修について
他方で、企業においては、採用当初等に一定の実務研修期間が設けられていることがあるところ、当該実務研修期間に行う活動のみを捉えれば「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当しない活動(例えば、飲食店での接客や小売店の店頭における販売業務、工場のライン業務等)であっても、それが日本人の大卒社員等に対しても同様に行われる実務研修の一環であって、在留期間中の活動を全体として捉えて、在留期間の大半を占めるようなものではないようなときは、その相当性を判断した上で当該活動を「技術・人文知識・国際業務」の在留資格内で認めています。
上記はガイドラインの抜粋ですが、書かれているように条件付きで認められています。認められる場合として、「国籍問わず新しく入った社員全員が行う研修であること」「在留期間のうちの限られた期間であること」が挙げられます。
言うまでもないですが、理由なく外国籍ということのみを以って、日本人社員と差別をしたような研修計画は認められません。
現場研修は何カ月までなら行ってよいのか
「現場研修は何カ月までなら許可出ますか?」
とてもよくいただく質問ですが、明確な回答はできません。研修内容や雇用契約期間などによって変わってきます。この研修が認められる期間は「在留期間中の活動を全体としてとらえて判断する」とされており、研修計画などをもとに雇用契約期間全体をみて実務研修がその企業でのキャリアの中の一部と判断されれば、認められることになります。研修内容が合理的なものであれば、1年間を超えて行う実務研修も認められなくはありません。ガイドラインには以下のように記載されています。
なお、採用から1年間を超えて実務研修に従事するような申請については、下記3に記載する研修計画の提出を求め、実務研修期間の合理性を審査します。
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で許容される実務研修について
研修期間として部分的に捉えれば「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当しない活動を行う必要がある場合、必要に応じ、受入機関に対し日本人社員を含めた入社後のキャリアステップ及び各段階における具体的職務内容を示す資料の提出をお願いすることがあります。
いくら綿密に研修計画やその方法を企画をしていた場合でも、その新入社員が期待通りの習熟度になるかどうかは、入社当初からは分かりません。その場合について、下記のように書かれています。
なお、在留期間更新時に当初の予定を超えて実務研修に従事する場合、その事情を説明していただくことになりますが、合理的な理由がない場合、在留期間の更新が認められないこととなります。
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で許容される実務研修について
例えば、現場研修を入社から10か月で終わらせる、と当初申告していたのにも関わらず、在留期間更新の時期を迎えた入社から1年後も現場研修を継続していた場合、更新が許可されるためには合理的な理由が必要です。また、新たに進捗に応じた研修計画を作り提示する必要があると思います。
過去にあった事例で、1年間で研修が終わらなかったために、研修が終わった想定で期間の更新を行った結果、入管から調査が入り現場研修を継続していたことが判明し不許可になったことがありました。この事例では、初めから研修を継続していることを説明していれば許可された可能性があるのにも関わらず、虚偽をしたことで入管から不信感をむやみにかってしまうことになりました。
「現場研修」の考え方を悪用することはやめたほうがよい理由
許可が欲しいあまり、そもそも長期間にわたる資格外活動の「実務研修」について触れない申請や、このガイドラインを逆手に取って「無期雇用契約をしているけれども、実態は1年間だけの雇用(その期間中は現場で労働させる)」とする雇用実態は、虚偽申請・不法就労・不法就労の助長に該当する場合があると言えます。
この「現場研修」の考え方は、必ず現場研修を終えて「技術・人文知識・国際業務」で認められている活動を行うことを前提に認められている考え方です。言い方を変えれば、「国籍問わず、キャリアアップする人もいるし、そうでない人も当然いる。雇ってみなければ分からない。」という理屈は通用しないと思ったほうがよいと思います。キャリアアップさせられない場合には、どうしなければならないのか、ということまで検討した上で雇用をすべきではないでしょうか。
長期間で現場業務をさせたい場合に検討すべき在留資格
そもそも現場での人材が足りていないのであれば、期間限定ではなくそもそも従事が可能なその他の在留資格を検討し、場合によっては組織体制や採用活動自体を見直すことをお勧めします。検討ができそうな在留資格について解説します。
在留資格『特定技能1号』
在留資格『特定技能1号』は、日本において特に人手不足の著しい業種・業界の12分野において今まで就業が認められなかった現業の業務に従事することが可能です。その12分野には、介護業、ビルクリーニング業、素形材産業・産業機械製造業・電気電子情報関連産業、建設業、造船・舶用業、自動車整備業、航空業、宿泊業、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業があります。
これらの分野それぞれで受入可能な事業所の要件や、従事可能な業務内容、人材に求められる要件が細かく決められておりますが、今まで「技術・人文知識・国際業務」では従事できなかった業務内容に従事できるようになりました。
在留資格『特定活動(46号・本邦の大学卒業者)』
『特定活動 (46号・本邦大学卒業者) 』は、日本の大学を卒業し、高い日本語レベル(N1相当レベル)を持った留学生が、日本の学生と同様に自由に就職活動ができることを目的に作られた在留資格です。ガイドラインの中で下記のように定められています。
本制度は、本邦大学卒業者が本邦の公私の機関において、本邦の大学等において修得した広い知識、応用的能力等のほか、留学生としての経験を通じて得た高い日本語能力を活用することを要件として、幅広い業務に従事する活動を認めるものです。「技術・人文知識・国際業務」の在留資格においては、一般的なサービス業務や製造業務等が主たる活動となるものは認められませんが、本制度においては、上記諸要件が満たされれば、これらの活動も可能です。ただし、法律上資格を有する方が行うこととされている業務(業務独占資格が必要なもの)及び風俗関係業務に従事することは認められません。
留学生の就職支援に係る「特定活動」(本邦大学卒業者)についてのガイドライン (http://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/nyuukokukanri07_00038.html)
人材に係る要件のハードルは高いですが、『技術・人文知識・国際業務』の在留資格よりも幅広い業務(例えば、現場作業やサービス業務)に従事することができることが最大の特徴です(ただし、それのみに従事することはできません)。この在留資格の場合には、研修期間などの縛りなく幅広く業務に従事可能です。
在留資格『特定活動(日本育ちの外国人の場合)』
働く親と一緒に日本に来日して日本で育った外国籍の方は、日本で就労するためには就職する時点で、就労が可能な在留資格を持っている必要があります。動制限のない身分系の在留資格の場合は変更の必要はありませんが、在留資格『家族滞在』や『留学』の場合には、就労が可能な在留資格に変更をする必要があります。
就労目的で在留する外国籍の方が増えたことを背景に、日本生まれ、日本育ちの外国籍の子どもが増えてきました。在留資格『家族滞在』や『留学』で滞在する日本育ちの子どもが同級生の日本人と同じように就職活動及び就職をしても問題ないように、就労可能な在留資格が選べる制度があります。
出入国在留管理庁は、日本育ち(17歳までの入国・高校を卒業した)の外国籍の方の就労可能な在留資格について、『「家族滞在」の在留資格をもって在留し、本邦で高等学校卒業後に本邦での就労を希望する方へ』にて「定住者」又は「特定活動」への在留資格の変更を認めています。就職を機にこれらの在留資格に変更することで、日本人の学生と同じように業務内容にとらわれることなく就職ができます。
身分系の在留資格
『永住者』『日本人の配偶者』『永住者の配偶者等』『定住者』はよく「身分系の在留資格」と呼ばれます。これら4つの在留資格は、活動内容に制限がないためどのような業務にでも従事が可能です。
まとめ
以上、外国人労働者に「単純労働」させることが可能な場合について解説しました。在留資格や資格外の活動をする期間が研修期間に該当するのか等によって、認められる場合とそうでない場合があります。「人手不足」と呼ばれる産業は、ITエンジニアを除いて多くのケースで「技術・人文知識・国際業務」といった在留資格では従事できない場合が多くなっています。その場合でも、その他の在留資格を検討することで従事可能な場合もあります。是非、色々な角度から検討をしてみてください。
【行政書士からのアドバイス】
「現場研修のガイドラインは出ているけれども実際はどうなの!?」とご質問をよくいただきます。業務内容や研修内容によっても判断は変わってくるとも言えます。場合によってはその他の在留資格を検討したほうがよい場合もあります。