特定技能の雇用条件を考える中で、頭を悩ませる要素の一つに「給料」の決め方があるのではないでしょうか。特定技能の運用要領などを読んでいても、同等のポジションの日本人と比較しながら決めなければならず、さらには「特定技能外国人の報酬に関する説明書」でしっかり説明しなければなりません。
本編では、特定技能人材の給料の決め方について解説します。
在留資格『特定技能』とは
特定技能は、特に人手不足の著しい産業において、一定水準以上の技能や知識を持ち最低限生活や業務に必要な日本語能力を持った外国人を対象に、決められた業務内容を行うことができる在留資格です。
大きな特徴としては、今までの在留資格(ビザ)では認められなかったマニュアルや訓練をもとに習得をする「技能」に関する業務内容に従事ができる在留資格です。
- 特定技能1号:特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けと在留資格
- 特定技能2号:特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
特定産業分野(12分野):介護、ビルクリーニング、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食
※特定技能2号は下線部の2分野のみ受入可
在留資格『特定技能』の特徴
特定技能は冒頭にも説明したように一定水準以上の技能や知識を持ち、最低限生活や業務に必要な日本語能力を持った外国人を対象に、決められた産業で限定された業務内容を行うことができる在留資格です。
よく比較をされる在留資格『技能実習』での実績や反省をもとに、様々な工夫がされた制度になっています。そのため、他の在留資格よりも求められる要件は細かく、当然、すべてを満たさなければなりません。
特に他の在留資格と異なる部分として、『特定技能』では受入前に特定技能人材の公私の生活を支える「支援計画」を作成し、それをもとにサポートを行うことが挙げられます。「支援計画」では、具体的には入国から就業までの私生活のサポートや、また日本語学習の機会や日本文化になじむための補助、定期的な面談や相談・苦情の対応などを行います。このため、自社でできないと判断した場合は「支援計画」を行うための別機関である「登録支援機関」(全国にある民間企業)に実行を委託することもできます。
「特定技能」が複雑と言われる理由で「支援計画」以外の部分としては、入管に関する法令(出入国管理及び難民認定法)以外にも、労働関係法令、租税関係の法令など遵守できているか確認すべき法令の範囲が広く、そのため申請時の提出書類が多いことも挙げられます。
具体的には、以下の大枠4点の基準から審査がされることになります。
- 特定技能外国人が満たすべき基準
- 受入機関自体が満たすべき基準
- 特定技能雇用契約が満たすべき基準
- 支援計画が満たすべき基準
在留期間は、『特定技能1号』の場合は「4か月」「6ヶ月」「1年」で通算で上限5年の在留となります。一方、『特定技能2号』は「6ヶ月」「1年」「3年」が与えられ、更新をし続ければ「永住者」ビザの申請も将来的には可能です。
また、家族の帯同は『特定技能2号』の場合は認められます。『特定技能1号』はもともと『家族滞在』ビザなどで在留していたご家族がいるような場合を除き、基本的には認められません。
在留資格『特定技能』が満たすべき要件
特定技能人材の給料については、許可を取るための要件の一つになります。
具体的には、『特定技能雇用契約が満たすべき基準』では3つのポイントを確認をします。
①相当程度の知識もしくは経験を必要とする技能を有する業務に従事させること
②同一業務に従事する通常の労働者と所得労働時間が同等であること
③同等の業務に従事する日本人の報酬の額と同等以上であること
雇用契約で確認される事項は、「労働関係についての法律」について遵守していることが最低条件に、さらに上記に掲げる3つのポイントを満たす必要があります。
これらに共通しているキーワードの一つが「外国人であることを理由に差別をして、日本人と同じような仕事をさせず不当に給料を下げていないか?」ということが見られます。この3つのポイントの中でも特に厳格にみられるのが「給料」になります。
そもそもの給料の決め方について
そもそも(国籍問わず)「日本人」の給料の決め方・決まり方について確認しましょう。外国籍であっても、基本的な給料の決め方は日本人の給料の決め方のプロセスと同じになります。
まずは「労働基準法」の確認
『労働基準法』において下記のように定められています。
使用者は、労働者の国籍、信条、社会的身分を理由として、賃金、労働時間その課の労働条件に付いて、差別的取り扱いをしてはならない。
労働基準法 第3条
そもそも「外国人であれば最低賃金で雇用できる!?」というのは誤りです。そしてこれは、入管法で定められている以前に、労働基準法で定められています。
また、国籍問わず説明をすると、労働条件を決めるにあたって法律度外視の「会社独自のルール」は認められません。労働条件を決める際には、様々は労働に関連する法令を全て満たす必要があります。代表的な法律は「労働基準法」「労働契約法」「最低賃金法」などが挙げられます(これら以外でもすべて満たす必要があります)。
まずはこれらの法律をもとに「労働協約」や「就業規則」を決定します。例えば、最低賃金を下回る就業規則(給与規程)をきめたところでその部分は無効となります。実際に支払われた賃金が最低賃金以上でない場合は罰則の対象です。
「労働契約」は、「労働協約」や「就業規則」を基準に作成します。就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となり無効となった部分は就業規則で定める基準が使用されます(労働基準法第93条、労働契約法第12条)。
以上から、労働契約を決める際にはまずは「法律」を遵守し、次に労働協約や就業規則などの「会社共通のルール」をもとに作成していくことになります。
基本的には、普段から就業規則(給与規程)に則て給料を決められている会社に関しては深く考える必要はなく、普段通りで問題はありません(※)。
※ただし、技能実習生がいる場合は注意点があるため後述します。
在留資格を問わず「日本人と同等以上」は共通のルール
基本的に外国人の就労に関するどの在留資格においても、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以降の報酬を受けること」の旨の規定が定められています(審査要領)。注意をしなければならないのは、特定技能の場合はより厳格に定められ審査されることになります。
ちなみに「日本人が従事する場合」というのは社内の日本人と比較するだけではありません。「他企業の同種の職種の日本人の賃金」とも比較する場合もあります。
※分社化して外国人従業員のみの会社を設立し不当に安く雇うといったことはできないようになっています。
特定技能については、「日本人と同等以上」というルールについては、別紙資料で細かく説明しなければならず厳しいイメージを持ちがちですが、基本的にこのルールは在留資格問わず共通のルールと言えます。
特定技能人材の給料の決め方
長くなりましたが、前章までに(国籍問わず)給料の決めるまでのプロセス、そして入管法に定められている「日本人と同等以上」の考え方について説明しました。
次に、具体的な「特定技能」の運用にについて説明します。
【改めて確認】本要件の目的について
当事務所にも、本要件についての考え方でよくお問合せをいただきます。説明すればお分かりいただけるのですが、質問をうかがうと「難しく考えすぎている」と感じるところがあります。実際はそこまで難しい話しではありません。
まずは、改めて「特定技能運用要領」から、本要件の趣旨を確認しましょう。
特定技能外国人の報酬の額が同等の業務に従事する日本人労働者の報酬の額と同等以上であることを求めるものです。
特定技能 運用要領
特定技能外国人に対する報酬の額については、外国人であるという理由で不当に低くなるということがあってはなりません。同程度の技能等を有する日本人労働者がいる場合には、当該外国人が任される職務内容やその職務に対する責任の程度が当該日本人労働者と同等であることを説明した上で、当該日本人労働者に対する報酬の額と同等以上であることを説明する必要があります。なお、これにより、外国人労働者と比較した際に、日本人労働者に不当に安い賃金を支払う結果とならないように留意してください。
特定技能外国人だから「日本人とは違う」訳でも、「他の外国人とは違う」訳でもありません。ただ差別をせず不当に安く雇うことが無いように、という当たり前のことを当たり前に対応すればよいだけです。
審査のポイント ~誰と比較すればよい?~
比較するのは「同種の職種の同等の職務レベル」の日本人の給料と比較して、差別されていないかを審査されます。
就業規則(給与規程)がある場合
まず、比較すべき日本人は「申請人と責任の程度や経験年数等が同等程度の者」になります。
給与規程が定められており、日本人労働者もこの考え方に沿って決められている場合は、賃金規定通りに決定すれば問題ありません。
分かりやすい例でいうと、新卒の無資格・未経験者を特定技能人材に採用する場合に、就業規則(給与規程)に則て「無資格・未経験・新卒の場合の給料」で決定する場合はそれに従うまで、ということになります。「未経験・無資格者の場合」という条件を満たすのであれば、「年齢」については会社として規定がなければ考慮する必要はありません。
就業規則(給与規程)が無い場合
賃金規定がない場合は、比較対象となる日本人労働者の役職、職務内容、責任の程度等が特定技能外国人と比較します。同等以上であれば問題ありません。
「比較対象」となる日本人労働者がいない場合、最も近い職務を担う日本人労働者の役職、職務内容、責任の程度について申請人との差が合理的に説明されていることを確認します。
そもそも「日本人を雇用したことがない」「ベテラン中途社員ばかり雇用していて未経験の20代は初めて」など、「同等の職務レベルの日本人」がいない場合は、近隣同業他社において同等の業務に従事する特定技能外国人の報酬額と比較します。この場合、ハローワークや求人媒体に掲載されている近隣事業所の同業種の求人票を検索し、同等レベルであることが確認できれば問題ありません。実務対応としては、疎明資料として比較できる求人票などを添付するとよいでしょう。
注意が必要なのは【技能実習生】がいる場合や【技能実習】から移行する場合
『特定技能1号』は『技能実習2号』から移行することができます。また、『技能実習2号』で習得する技能レベルは、『特定技能1号』を取得するために必要な「特定技能評価試験」で合格するのに必要な技能レベルに匹敵します。つまり、『技能実習2号』修了者であれば3年程度の経験を積んだものであることから、『特定技能1号』に移行した場合に、『技能実習2号』以上の給料を上回っていることはもとより、実際に3年程度の経験を積んだ日本人の技能者に支払う給料とも比較し適切でなければなりません。
『技能実習3号』修了者の場合は、5年の経験を積んでいることになるため、5年以上経験を積んだ日本人と比較することになります。
『特定技能1号』人材として初めて雇用する場合で、『技能実習』からの移行でない場合であっても、その職場に技能実習生がいる場合は上記と同じ考えで給料を決めます。実務経験が実際のところ「0年」であったとしても「特定技能評価試験」に合格している場合には技能レベルは技能実習2号修了者と同等以上ということになるため、技能実習2号修了者の給料と同等以上である必要があります。
※特に新卒・特定技能人材と技能実習2号が混在しやすい分野(介護など)はお気を付けください。
分野によってはさらに厳格!?
建設業の場合には、さらに厳格に給料について確認がされます。
- 同等技能を有する日本人と同等額以上であること
- 月給制の採用(日本人は月給でなくても)
- キャリアアップシステムの利用
建設業についてはこちらの記事で詳細に説明しています。ご確認下さい。
まとめ
以上、特定技能の給料の決め方について解説致しました。
特定技能の給料の決め方は、就業規則・給与規定があればそれに則って決めていきます。給与規程が無い場合は、同等の技能レベルの日本人と比較をして決定をします。同等の技能レベルの日本人を雇用経験が無い場合は、近隣の同業の同種・同技能レベルの従業員と比較して給料が極端に低くないかを確認します。