特定技能人材は、従事させられる業務内容が該当していても当然に在留資格を取得できるものではありません。従事可能な業務内容をさせてもよい事業所であるかどうかの確認は必要です。ただし、14分野で統一的な決まりがあるわけではなく、それぞれの分野で細かく要件が決まっています。
本編では、分野別の要件について解説をしたく思います。
在留資格『特定技能』とは
特定技能は、特に人手不足の著しい産業において、一定水準以上の技能や知識を持ち、最低限生活や業務に必要な日本語能力を持った外国人を対象に、決められた業務内容を行うことができる在留資格です。
大きな特徴としては、今までの在留資格(ビザ)では認められなかったマニュアルや訓練をもとに習得をする「技能」に関する業務内容に従事ができる在留資格です。
- 特定技能1号:特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けと在留資格
- 特定技能2号:特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
従事可能な産業分野は以下の12分野です。
- 介護
- ビルクリーニング
- 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
※特定技能2号は下線部の2分野のみ受入可
上記の産業は、特に人手不足の著しい産業であり、労働人口が減少している現代では外国人の活躍が期待されている分野になります。今までは『技術・人文知識・国際業務』のようないわゆる高度人材のビザでは上記の産業において、単純労働や技能の業務は行うことができませんでした。また、技能実習はあくまで母国にノウハウを持ち帰るための研修生であるものの、実際には「安くて転職のできない労働力」として扱われることが多く社会問題になっていました。
『特定技能』は、よく比較をされる在留資格『技能実習』での実績や反省をもとに、様々な工夫がされた制度になっています。そのため、他の在留資格よりも求められる要件は細かくまた厳格に設定されており、それらすべてを満たす必要があります。
また、他の在留資格と異なり外国人の公私をサポートをする「支援計画」の策定をしなければなりません。「支援計画」では、具体的には入国から就業までの私生活のサポートや、また日本語学習の機会や日本文化になじむための補助、定期的な面談や相談・苦情の対応などを行います。このため、自社でできないと判断した場合は「支援計画」を行うための別機関である「登録支援機関」(全国にある民間企業)に実行を委託することもできます。
「特定技能」が複雑と言われる理由で「支援計画」以外の部分としては、入管に関する法令(出入国管理及び難民認定法)以外にも、労働関係法令、租税関係の法令など遵守できているか確認すべき法令の範囲が広く、そのため申請時の提出書類が多いことも挙げられます。
従事可能な業務と就業場所の関係
特定技能は、以下の大枠4点の基準から審査がされることになります。下記の細かい要件を全て満たすことで許可を得られます。
- 特定技能外国人が満たすべき基準
- 受入機関自体が満たすべき基準
- 特定技能雇用契約が満たすべき基準
- 支援計画が満たすべき基準
【特定技能の要件を満たしていることのイメージ】
上記からも分かるように、特定技能人材が従事可能な業務内容や就業場所はリンクしている必要があります。これ以外にも全ての要件を満たした場合に、在留資格の許可を得られることになります。
産業別の具体的な要件について
先ほど、『特定技能』人材で受入れ可能な12の産業について紹介しましたが、これはこの産業に該当していれば当然に就業が可能というわけではありません。それぞれの分野ごとに細かく受入れの可否について決められています。
分野別要領については、出入国在留管理庁HPに掲載されています。必ず該当の分野を確認するようにして下さい。
1.介護分野
- 介護福祉士国家資格試験の受験資格の認定において実務経験として認められる事業所であること
⇒地方自治体が発行する指定通知書等に記載されている事業又はサービスが次に該当しているか - 訪問系サービスを行わせない
- 1号特定技能外国人の人数枠は「事業所単位」で【日本人等】の常勤の介護職員の総数を超えないこと
⇒【日本人等】には①介護福祉士国家試験に合格したEPA介護福祉士②在留資格「介護」による在留する者③「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」により在留する者④特別永住者
2.ビルクリーニング分野
- 「建築物清掃業」又は「建築物環境衛生総合管理業」の登録を受けた営業所において受け入れること
登録を受けた営業所であればよいため、ビルクリーニング(清掃業)が本業でない事業所においても受入可能です。
3.素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野
- 特定技能外国人が活動を行う事業所が日本標準産業分類に掲げる産業のうち次の表に掲げるものを行っていること
2424 作業工具製造業、2431 配管工事用附属品製造業(バルブ、コックを除く)、
245金属素形材製品製造業、2465 金属熱処理業、2534 工業窯炉製造業、
2592 弁・同附属品製造業、2651 鋳造装置製造業、
2691 金属用金型・同部分品・附属品製造業、2692 非金属用金型・同部分品・附属品製造業、
2929 その他の産業用電気機械器具製造業(車両用、船舶用を含む)、3295 工業用模型製造業
2422 機械刃物製造業、248 ボルト・ナット・リベット・小ねじ・木ねじ等製造業、
25 はん用機械器具製造業(ただし、2534工業窯戸製造業、2591消火器具・消火装置製造業及び
2592弁・同附属品製造業を除く)、26 生産用機械器具製造業(ただし、
2651鋳造装置製造業、2691 金属用金型・同部分品・附属品製造業及び
2692非金属用金型・同部分品・附属品製造業を除く)、
270 管理、補助的経済活動を行う事業所(27業務用機械器具製造業)、
271 事務用機械器具製造業、272 サービス用・娯楽用機械器具製造業、
273 計量器・測定器・分析機器・試験
機・測量機械器具・理化学機械器具製造業、275 光学機械器具・レンズ製造業
28 電子部品・デバイス・電子回路製造業、29 電気機械器具製造業(ただし、2922内燃機関
電装品製造業及び2929その他の産業用電気機械器具製造業
(車両用、船舶用を含む)を除く)、30 情報通信機械器具製造業
上記に掲げるものについて直近1年間で製造品出荷額等が発生している必要があります。出荷先は、①同一企業に属する他の事業所への引き渡し、②自家使用されたもの(その事業所において最終製品として使用されたもの)③委託販売に出したの(販売済みでないものを含み、直近1年間中に返品されたものを除く)も製造品出荷に含みます(出所:『特定技能運用要領』)。素形材産業分野においては「主として」これらの産業を事業にしている必要はありません。
※なお、経済産業省管轄の本分野については、ビザの許可後に本要件を満たしていないということが多発している関係で、協議会への入会はビザ申請前にすることが要件となっています。協議会への入会審査は通常3~5週間程度要します。
4.建設業
- 建設特定技能受け入れ計画について、その内容が適当である旨の国土交通大臣の認定を受けていること
- 認定申請者が次に掲げる要件をいずれも満たしていること
- 建設業法3条の許可を受けていること
- 建設キャリアアップシステムに登録していること
- 特定技能外億陣受入事業実施法人(一般社団法人建設技能人材機構(JAC)又は当該法人を構成する建設業者団体に所属し、行動規範を遵守すること
- 5年以内又は申請日以後に建設業法に基づく監督処分を受けていないこと
- 職員の適切な処遇、適切な労働条件を提示した労働者の募集その他の国内人材確保の取組を行っていること
- 同等の技能を有する日本人が従事する場合と同等額以上の報酬を安定的に支払い(月給制)、技能習熟に応じて昇給を行うとともに、その旨を特定技能雇用契約に明記していること
- 特定技能雇用契約を締結するまでの間に、重要事項を当該外国人が十分に理解することができる言語で説明していること
- 受入れを開始し、もしくは終了した時又は特定技能雇用契約に基づく活動を継続することが困難となったときは、国土交通大臣に報告を行うこと
- 1号特定技能外国人を建設キャリアアップシステムに登録すること
- 1号特定技能外国人が従事する建設工事において、申請者が下請請負人である場合には、発注者から直接当該工事を請け負った建設業者の指導に従うこと
- 1号特定技能外国人の総数と外国人特定建設就労者の総数の合計が常勤職員(1号特定技能外国人、技能実習生及び外国人建設就業者を含まない)の総数を超えないこと
- 1号特定技能外国人に対し、受入後に、国土交通大臣が指定する講習又は研修を受講させること
- 認定申請者が次に掲げる要件をいずれも満たしていること
- 認定を受けた建設特定技能受け入れ計画を適正に実施し、国土交通大臣又は適正就労監理機関により、その旨の確認を受けること
建設業における特定技能の受入れは、「受け入れ計画」の認定(審査あり)から在留資格の申請と2段構えとなっています。フローが他の在留資格より格段と長くなっているため、例えば技能実習2号からの移行を検討している場合などは計画的な対応が求められます。
5.造船・舶用工業
- 造船業又は舶用工業に該当する事業所である
- 造船業
- 造船法6条1項1号又は2号の届け出を行っている者
- 小型船造船業法4条の登録を受けている者
- 上記①又は②のものからの委託を現に受けて船体の一部の製造または修繕を行う者
- 舶用工業
- 造船法6条1項3号又は4号の届け出を行っている者
- 船舶安全法6条の2の事業場の認定を受けている者
- 船舶安全法6条の3の整備規程の認可を受けている者
- 船舶安全法6条の3の事業場の認定を受けている者
- 船舶安全法6条の4の型式承認を受けている者
- 海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律の規定に基づき、上記②から⑤までに相当する制度の適用を受けている者
- 産業標準化法30条1項の規定に基づき、部門記号Fに分類される鉱工業品に係る日本産業企画について登録を受けた者の認証を受けている者
- 船舶安全法2条1項に掲げる事項に係る物件(構成部品等を含みます。)の製造又は修繕を行う者
- 造船造機統計調査規則5条2号の規定する船舶用機関又は船舶用品(構成部品等を含みます。)の製造又は修繕を行う者であって同規則にもお月調査票の提出を行っているもの
- 上記以外で、①から⑨までに規定する者に準ずるものとして国土交通省海事局船舶業課長が認める者
- 造船業
- 国土交通省に対する確認申請
- 国土交通省による確認通知書の交付等
6.自動車整備分野
- 地方運輸局長の認証を受けた事業場を有すること
<認証要件>
従業員に対する整備士の要件(1級、2級または3級の自動車整備士技能検定合格者数が従業員の数を4で除して得た数(1未満の端数は1とする。)以上であること)が課される。自動車整備士技能検定に合格していない特定技能外国人は、整備士としてカウントできない。従業員の数には、技能実習生及び特定技能外国人もカウントされる。 - 支援計画の全部の実施を受託する登録支援機関は、1級又は2級の自動車整備士技能検定合格者又は自動車整備士の養成施設において5年以上の指導にかかる実務の経験を有する者が置かれている必要がある
7.航空分野
- 空港管理規制に基づく構内営業承認等を受けた事業者又は航空法に基づく航空機整備等に係る認定事業場であること
8.宿泊分野
- 旅館業法2条2項に規定する旅館・ホテル営業の形態で旅館業を営んでいること
- 旅館業法3条1項の旅館・ホテル営業の許可を受けていること
- 風営法2条6項4号に規定する施設(ラブホテル等)において就労させないこと
- 風営法2条3項に規定する接待を行わせないこと
9.農業分野
- 直接雇用する場合:過去5年以内に、労働者(技能実習生を含む。)を6ヶ月以上継続して雇用した経験があること
- 派遣による場合:派遣先は過去5年以内に労働者を6か月以上継続して経験があるか、又は派遣先責任者講習その他労働者派遣法における派遣先の講ずべき措置等の開設が行われる講習を受講したものを派遣先責任者として選任していること
10.漁業分野
- 下記の条件を満たしていること
- 農林水産大臣又は都道府県知事の許可又は免許を受け漁業又は養殖業を営んでいる
- 漁業協同組合に所属している漁業又は養殖業を営んでいる
- 漁船を用いて漁業又は養殖業を営んでいる
- 協議会において協議が調った事項に関する措置を講ずること
- 直接雇用する場合:過去5年以内に、労働者(技能実習生を含む。)を6ヶ月以上継続して雇用した経験があること
- 派遣による場合:以下の1~3のいずれかに該当し、かつ、法務大臣と協議の上で適当であると認める者であること
- 漁業又は漁業に関連する業務を行っている者であること
- 地方公共団体又は①に掲げる者が資本金の過半数を出資していること
- 地方公共団体の職員又は1に掲げる者もしくはその役員若しくは職員が役員であること。その他地方公共団体又は1に掲げる者が業務執行に実質的に関与していると認められる者であること
11.飲食料品製造業分野
- 特定技能外国人が活動を行う事業所が「主として」日本標準産業分類に掲げる産業のうち次の表に掲げるものを行っていること
飲食料品製造業分野において、事業所が「主として」上記の産業を行っている必要があります。「主として」満たす必要があるのは事業所なので、例えば外食業などで儲けるプロセスセンターやセントラルキッチンなどは該当します。一方のスーパーなどのバックヤードの調理場は該当しません。
また、製造請負の場合も上記の産業を行っている場合は「飲食料品製造業分野」の対象とみなされます。
12.外食業分野
- 不泳法2条4項に規定する接待飲食業営業を営む営業所において就労させないこと
- 風営法2条3項に規定する接待を行わせないこと
スナックやキャバクラ等での店舗管理はできません。
まとめ
以上、特定技能で受入れ可能な事業所についてまとめました。
各分野で要件が異なってきます。事業所要件がある場合や、人数制限がある場合など、細かく規定があることもあるため確認が必要です。また、技能実習生がいる場合でも、事業者要件を満たさずに移行できないケースも多く見られているので注意が必要です。