特定技能人材を雇い入れる際に、雇用側に求められる要件の一つに「1年以内に特定技能人材と同ポジションで非自発的離職者を発生させていない」ということが求められます。従業員を雇用しているとどうしても様々な理由で退職していきます。特定技能人材の雇用を考えている事業所において「解雇」を行っている場合、内容によっては雇用することができない可能性があります。本編では、その条件について解説をします。
労働契約終了の形態について
労働契約の終了には、大きく分けて3つの方法があると言えます。特定技能人材の雇用を検討している場合、直近1年以内・雇用後において事業所に属する社員全員についての労働契約の終了方法について注意をする必要があります。
- 退職:従業員の意思表示によるもの(合意解約)
- 従業員からの申入れ
- 希望退職
- 退職勧奨
- 契約期間満了
- 労働契約期間の満了
- 求職期間の満了
- 死亡 など
- 解雇:会社の一方的な意思表示によるもの。
- 普通解雇(能力不足、経営上の理由など)
- 整理解雇(事業の縮小など経営上の理由など)
- 懲戒解雇(従業員の重大な過失や問題行動によるもの)
特定技能制度における「非自発的離職者を発生させていない」という点でいうと、「契約期間の満了」や「解雇」による労働契約の終了については注意が必要です。
厚生労働省『契約の終了に関するルール』
特定技能における「非自発的離職者」の発生に関する規定について
「非自発的離職者」が発生している事業所では特定技能は受入ができないとされています。その理由と「非自発的離職者」の意味について確認をします。
特定技能を受入企業が「非自発的離職者」を発生させていてはならない理由
特定技能所属機関が、現に雇用している国内労働者を非自発的に離職させ、その補填として特定技能外国人を受け入れることは、人手不足に対応するための人材の確保という本制度の趣旨に沿いません。そのため、特定技能外国人に従事させる業務と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないことを求められています。
特定技能人材の受入機関の欠格要件の一つに下記の規定があります。
- 特定技能外国人に従事させる業務と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないこと
- 特定技能雇用契約の締結の日前1年以内のみならず、特定技能雇用契約を締結した後も非自発的離職者を発生させていないこと
この規定は「外国人材」や「特定技能人材」に関してのことだけではなく、国籍問わずその事業所で全ての社員の退職内容について確認しなければならないことになります。
「特定技能雇用契約において外国人が従事することとされている業務と同種の業務に従事していた労働者」とは、特定技能所属機関にフルタイムで雇用されている日本人従業員、中長期在留者及び特別永住者の従業員(パートタイムやアルバイトを含まない。)をいい、特定技能外国人が従事する業務と同様の業務に従事していた者をいいます。
また「非自発的に退職させた」ケースは具体的には下記のものが該当します。
①人員整理を行うための希望退職の募集又は退職勧奨を行った場合(天候不順や自然災害の発生、又は、新型コロナウイルス感染症等の感染症の影響により経営上の努力を尽くしても雇用を維持することが困難な場合は除く。)
『特定技能』運用要領
②労働条件に係る重大な問題(賃金低下、賃金遅配、過度な時間外労働、採用条件との相違等)があったと労働者が判断したもの
③就業環境に係る重大な問題(故意の排斥、嫌がらせ等)があった場合
④特定技能外国人の責めに帰すべき理由によらない有期労働契約の終了
特に①②③の理由については、一見、労働者側の希望のようにも見えますがこの場合は「非自発的に退職させた」ケースになるため注意が必要です。
特定技能雇用契約の締結の日の前1年以内のみならず、特定技能雇用契約を締結した後も非自発的離職者を発生させていないことが求められます。「非自発的離職者」を発生させた場合、特定技能人材の雇用継続は困難となり、その後1年間は雇用できなくなります。
「非自発的離職者」に該当しない場合
「非自発的離職」に該当しない場合として下記が定められています。
イ 定年その他これに準ずる理由により退職した者
特定技能基準省令第2条
ロ 自己の責めに帰すべき重大な理由により解雇された者
ハ 期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)の期間満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了(労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該有期労働契約の期間満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって,当該有期労働契約の相手方である特定技能所属機関が当該労働者の責めに帰すべき重大な理由その他正当な理由により当該申込みを拒絶することにより当該有期労働契約を終了させる場合に限る。)された者
二 自発的に離職した者
自己の責めに帰すべき重大な理由により解雇された者とは
まず、「ロ 自己の責めに帰すべき重大な理由により解雇された者」とは、「社会の常識に照らして納得できる理由」がある解雇になります。例えば、下記のようなケースが想定されます。
① 会社内における窃盗、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合
東京労働局『しっかりマスター 労働基準法 解雇編』
② 賭博や職場の風紀、規律を乱すような行為により、他の従業員に悪影響を及ぼす場合
③ 採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
④ 他の事業へ転職した場合
⑤ 2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
⑥ 遅刻、欠勤が多く、数回にわたって注意を受けても改めない場合
上記のようなケースの場合は、「指導記録」や「始末書」、「タイムカード」、「雇入れ時の履歴書」などの証拠をしっかりと残しておいたほうがよいでしょう。また、解雇の規定を就業規則に定めて置き雇入れ時に説明を行うことでトラブルを極力避けるよう予防策をとっておきましょう。なお、就業規則の周知も雇用主の義務です。
期間の定めのある契約(有期労働契約)の場合
まず、期間の定めのある契約は、予め契約期間を定めた契約になるため、やむを得ない事情がない場合は契約途中で労働者を解雇することはできません(労働契約法第17条)。そもそも、双方で合意しなければ退職に至れません(解雇はできません)。
期間満了時において、労働者が契約期間の更新や有期労働契約の締結の申し込みをしなかった場合は、契約解消となっても「非自発的離職者」には該当しません。一方、労働者側から「申し込み」があった場合は、「労働者の責めに帰すべき重大な理由その他正当な理由」がない場合は「非自発的離職者」に該当してしまいます。「契約満了」であっても、理由なく契約更新や締結の拒絶はできません。
特定技能人材を雇用するうえで注意しなければならないこと
特定技能雇用契約の締結の日の前1年以内のみならず、特定技能雇用契約を締結した後も非自発的離職者を発生させていないことが求められます。在留資格の申請において、出入国在留管理庁も退職理由や背景(本質)を気にするところになります。
従業員の意思表示によるものなのかどうかをはっきりさせる
特定技能のルール上、「非自発的離職者」の発生を疑われた場合に客観的にな証拠を提示するためにも、外国籍の方には馴染みのないものにはなりますが、必ず「退職届」を受け取るようにしましょう。
特に「退職勧奨」をする場合においては、認識の違いで後でトラブルになりがちです。「合意のもとの退職である」ことの記録を残すようにしましょう(※人員整理は非自発的離職者に該当します)。
ただし、脅迫をして「合意退職」にすることはあってはなりません。
どうしても「解雇」をする場合はルールに則って行う
まず、「解雇できない人」を「解雇」にすることはできません(労働契約法第16条)。例えば、労務災害で病気療養中や産前産後の休業期間とその後の30日間、労働組合の組合員であることを理由としたもの、労働者の性別や結婚・妊娠・出産など、労働者が育児や介護休業を申し出たことなどが該当します。解雇するには、社会の常識に照らして納得できる理由が必要です。
解雇を行う場合であっても、「天災その他やむを得ない理由(天候不順や自然災害の発生、又は、新型コロナウイルス感染症等の感染症の影響により経営上の努力を尽くしても雇用を維持することがこんな場合)で人員整理を行う場合」や、「特定技能人材の責めに帰すべき理由による場合」については、欠格要件に該当せず特定技能人材の雇用を継続できます。
これらの理由の場合は、労働基準監督署の認定を受けることで解雇予告や解雇予告手当が不要になるものです。解雇予告をせず・解雇手当を支払わずに解雇を行う場合には、必ず労働基準監督署の認定を受けなければなりません。
非自発的離職者を発生させている疑いがある場合
非自発的離職者が多数いる場合は、実態を調査するために審査の過程で「労働者名簿」や公共職業安定所に提出すら「雇用保険被保険者離職証明書」の控えを求められる場合があります(「特定技能 審査要領」)。
この際に提出する「労働者名簿」は労働基準法で事業所ごとに作成し保存することが義務付けられており、「出せない」ということはあってはならないことになります。そもそも特定技能では「労働基準法」を遵守している事業所での勤務しか認められない(遵守できていない場合は不法就労に該当する)ので、申請人の在留資格の申請の不許可・不交付だけでは済まない事態にもなりかねません。
非自発的離職者を発生させてしまったら
非自発的離職者を発生させた場合は、「受入困難に係る届出」を行わなければなりません。また支援責任者・支援担当者は非自発的離職者の転職支援を行い、またその他の特定技能人材についても雇用を継続することはできないため転職支援を行わなければなりません。
具体的には公共職業安定所(ハローワーク)に相談に行くことなどが該当し、このような支援を行った場合は「支援実施状況に係る届出」を行わなければなりません。
まとめ
以上、特定技能制度における「非自発的離職者」の規定について解説しました。
「非自発的離職者」を発生させてしまうと、以降1年間は特定技能人材の雇用ができません。このため、解雇や契約終了の手続きに慎重さが求められますが、適法にかつリスクヘッジを日ごろから心がけていれば問題は発生しません。お世話になっている社労士の先生がいれば、アドバイスをもらいながら対応してください。