特定技能では農業分野と漁業分野のみで派遣形態が認められております。派遣元は特定技能制度を適切に運用しつつ労働者派遣法も遵守することが求められ、派遣先にも特定技能人材を受け入れるために満たさなければならない要件があります。他の特定技能の分野に比較して要件が複雑ではありますが、季節性のある農業・漁業分野で派遣形態で特定技能人材を受け入れることは大きな戦力につながるはずです。本編では、特定技能の派遣形態について解説します。
そもそも特定技能とは
まずは、在留資格(ビザ)についてと特定技能がどのような在留資格であるかを説明します。
在留資格について
「在留資格」とは、外国人が合法的に日本に上陸・滞在し、活動することのできる範囲を示したものです。2022年1月現在29種類の在留資格があります。在留資格は「ビザ」という名称で呼ばれることが多いです。
在留資格は、活動内容や身分(配偶者・子など)によって割り当てられています。日本に滞在するすべての外国人が、何かしらの在留資格を持っているということになります。よって、外国人は活動内容や身分(ライフスタイル)に合わせて、在留資格を変更しながら日本に滞在することになります。
例えば、上記の方の場合、日本語学校の学生の間は「留学」ビザで活動します。その後、料理人になった場合は「技能」というビザに切り替えなければなりません。また、独立開業してレストランの経営者になった場合は「経営・管理」ビザを取得します。もし、将来、日本への永住を決意し一定の要件を満たしているようであれば、「永住者」ビザを取得することもできます。
在留資格の一覧は下記になりますが、言い換えると以下に当てはまるものがない場合は、日本での滞在はできないということになります。
特定技能の“目的”について
『特定技能』は2019年5月に新設された比較的新しい在留資格です。この在留資格は、日本で特に人手不足の著しい産業において一定水準以上の技能や知識を持つ外国人労働者を受け入れて、人手不足を解消するためにつくられたものです。特定技能制度の創設目的について、運用要領では下記の通り書かれています。
中小・小規模事業者をはじめとした人手不足は深刻化しており、我が国の経済・社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきているため、生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みを構築することが求められているものです。
特定技能外国人の受入れに関する運用要領
『特定技能』の大きな特徴として、雇用できる業種(14の限定された業種)、従事できる活動内容が細かく決められており、この業務に従事する外国人はその分野の試験を合格していることが求められます。特定技能1号・2号の違い、分野については下記の通りです。
- 特定技能1号:特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
- 特定技能2号:特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
特定産業分野(12分野):介護、ビルクリーニング、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食
※特定技能2号は下線部の2分野のみ受入可
特定技能は日本人の労働人口減少に伴う労働力不足を補うため、特に人手不足の著しい産業において外国籍人材に活躍してもらうためにできた在留資格です。様々な背景から農業・漁業以外の分野では派遣形態は認められておりませんが、季節的な要因で仕事量が年間を通して左右される農業・漁業の分野・業種のみで「派遣」は認められています。
在留資格『特定技能1号』で派遣が可能な分野・業種について
特定技能で派遣形態が認められているのは、下記の2分野です。
・漁業:漁業(漁具の製作・補修、水産動植物の探索、漁具・漁労機械の操作、水産動植物の採捕、漁獲物の処理・保存、安全衛生の確保等)、養殖業(養殖資材の製作・補修・管理。養殖水産動植物の育成管理・収穫・処理、安全衛生の確保等)
農業と漁業は季節による作業の繁閑が大きく、繁忙期の労働力の確保や複数の産地間での労働力の融通といった現場のニーズがあるために、派遣形態が認められています。
「派遣元」と「派遣先」が満たす必要のある要件について
特定技能人材を派遣形態で雇用するためには、「派遣元」と「派遣先」の両方ともに満たす必要のある条件・ポイントがあります。
そもそも「特定技能」で満たす必要がある要件について
特定技能は、以下の大枠4点の基準から審査がされることになります。下記の細かい要件を全て満たすことで許可を得られます。
- 特定技能外国人が満たすべき基準
- 受入機関自体が満たすべき基準
- 特定技能雇用契約が満たすべき基準
- 支援計画が満たすべき基準
【特定技能の要件を満たしていることのイメージ】
特定技能人材を受け入れるためには「受入機関自体が満たすべき基準」を満たす必要があります。この「受入可能な状態か」どうかについては大きく以下のような項目があります。
- 社会保険や税金をきちんと納めているか
- 非自発的離職者を発生させていないか
- 過去に技能実習生や特定技能人材を失踪させたことなないか
- 労働関係法令を遵守しているか
- 支援計画を実行する体制が整っているか
具体的には運用要領に以下のように書かれています。
① 労働、社会保険及び租税に関する法令を遵守していること
特定技能外国人の受入れに関する運用要領
② 1年以内に特定技能外国人と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないこと
③ 1年以内に受入れ機関の責めに帰すべき事由により行方不明者を発生させていないこと
④ 欠格事由(5年以内に出入国・労働法令違反がないこと等)に該当しないこと
⑤ 特定技能外国人の活動内容に係る文書を作成し,雇用契約終了日から1年以上備えて置くこと
⑥ 外国人等が保証金の徴収等をされていることを受入れ機関が認識して雇用契約を締結していないこと
⑦ 受入れ機関が違約金を定める契約等を締結していないこと
⑧ 支援に要する費用を,直接又は間接に外国人に負担させないこと
⑨ 労働者派遣の場合は、派遣元が当該分野に係る業務を行っている者などで、適当と認められる者であるほか、派遣先が①~④の基準に適合すること
⑩ 労災保険関係の成立の届出等の措置を講じていること
⑪ 雇用契約を継続して履行する体制が適切に整備されていること
⑫ 報酬を預貯金口座への振込等により支払うこと
⑬ 分野に特有の基準に適合すること(※分野所管省庁の定める告示で規定)
特定技能人材を雇用する場合には、上記全ての項目を遵守しなければなりません。また、派遣形態の場合で、直接雇用にない条件として「労働者派遣法」の遵守も必要になります。
派遣元が満たす必要がある要件ついて
特定技能人材を派遣する「派遣元」はどのような企業でもよいという訳ではありません。「派遣元」になることができる企業には条件があり、派遣の免許を持っているだけでなく「農業分野」・「漁業分野」どちらもそれぞれの分野に「ゆかり」がある事業者でなければなりません。
「農業分野」特有の要件について
「派遣元」は以下の①~④のいずれかに該当している事業者が可能
特定技能外国人の受入に関する運用要領
①農業または農業に関連する業務を行っている者であること
②地方公共団体または①に掲げる者が資本金の過半数を出資していること
③地方公共団体の職員又は①に掲げる者もしくはその役員もしくは職員が役員であることその他地方公共団体または①に掲げる者が業務執行に実質的に関与していると認められる者
④国家戦略特別区域法16条の5第一項に規定する特定機関(農業支援活動を行う外国人の受入を適正かつ確実に行うために必要なものとして政令で定める基準に適合する機関)であること
「農業に関連する業務を行っている者」に該当し得る事業者として、農業協同組合、農業協同組合連合会、農業者が組織する事業協同組合などが挙げられます。
▶参考:農林水産省『国家戦略特区農業支援外国人受入事業』
「漁業分野」特有の要件について
「派遣元」は以下の①~④のいずれかに該当している事業者が可能
特定技能外国人の受入に関する運用要領
①漁業または漁業に関連する業務を行っている者であること
②地方公共団体または①に掲げる者が資本金の過半数を出資していること
③地方公共団体の職員又は①に掲げる者もしくはその役員もしくは職員が役員であることその他地方公共団体または①に掲げる者が業務執行に実質的に関与していると認められる者
漁業経営体や養殖経営体のように漁業分野に係る業務(漁業又は養殖業)を直接行っている事業者のほか、「漁業に関連する業務を行っている者」にあたり得る事業者として、漁業協同組合、漁業協同組合連合会等が想定されます。
派遣先が特定技能人材の受入で注意しなくてはならない点について
派遣先は、直接に外国人労働者を雇用するわけではありませんが、特定技能人材を受け入れるための条件があります。また、適切な外国人雇用は派遣先も同様に求められ、ルール違反の場合には「不法就労助長罪に問われることもあります。」
特定技能人材を受け入れるための一部要件については派遣先でも満たす必要がある
「派遣先」が外国人を直接雇用するわけではありません。特定技能人材を雇用するために満たす必要のある要件は、基本的には「派遣元」にかかってきます。加えて、一部の要件については「派遣先」も満たす必要があります。
① 労働、社会保険及び租税に関する法令を遵守していること
② 1年以内に特定技能外国人と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないこと
③ 1年以内に受入れ機関の責めに帰すべき事由により行方不明者を発生させていないこと
④ 欠格事由(5年以内に出入国・労働法令違反がないこと等)に該当しないこと
上記の要件は、「外国人雇用」に関することだけでなく、日本人も含めた過去の従業員の雇用状況や法令順守が求められます。派遣先においても、労働関係法、社会保険、租税に関する法令の遵守がなされていなければ特定技能人材は受け入れることはできません。また、1年以内に特定技能人材が従事する業務と同じポジションの労働者を事業者の都合で解雇をした場合には、特定技能人材を雇用することはできません。また、既に技能実習生や特定技能人材を雇用していた場合に、派遣先の責任で行方不明者を発生させた場合も受入ができません。
これらの条件は、特定技能人材を受入れる「前」だけでなく、「受入期間中」も満たし続けなければなりません。
派遣先も「不法就労助長罪」に問われる場合がある
特定技能に限定する話ではありませんが、直接雇用をしていない「派遣先」であっても外国人労働者の「不法就労」に加担する場合には「不法就労助長罪」に問われる場合があります。不法就労助長罪は「知らなかった」では済まされません。「派遣先」と言えども外国籍人材を受け入れる場合には、法令順守の意識は重要です。
② 出入国在留管理局から働く許可を受けていないのに働くケース (観光ビザで入国した人が許可を受けずに働く)
③ 出入国在留管理局から認めたられた範囲を超えて働くケース (留学生のオーバーワーク、外国料理のコックや語学学校の先生として働くことを認められた人が工場で作業員として働く)
▶参考:警視庁『外国人の適正雇用について』
特定技能制度と労働者派遣法の関係について
特定技能人材の派遣においても、「派遣元」は労働者派遣法の遵守の上での対応が求められます。つまり、直接雇用の場合ではOKなものであっても、労働者派遣法で制限されている内容は厳しい方の基準に合わせなければなりません。
特に注意が必要な点を解説します。
対応可能エリア
労働者派遣事業における派遣先の対象地域においては、責任者が日帰りで派遣労働者からの苦情の処理を行うことができる範囲である必要があります。例えば、派遣元が登録支援機関を兼ねる場合には、登録支援機関としての対応可能範囲よりも労働者派遣事業における対応可能範囲のほうが狭い場合があるため注意が必要です。
派遣期間について
派遣形態において、派遣先は当該派遣先の事業所その他派遣就業の場合毎の業務について、派遣元事業主から派遣可能期間(3年)を超える期間継続をして労働者の派遣を受け入れてはならない、というルールがあります。派遣労働者が無期雇用の場合などの一定の場合には適用外になる場合にもありますが、最長5年の在留が決められている特定技能人材は有期雇用であることを考えると、このルールは適用されることがほとんどと思われます。
このルールがあるため、派遣先は最大3年間までしか派遣労働者を受け入れること(派遣サービスを受けること)ができません。3年を超えて派遣サービスを利用する場合には、過半数労働組合等(当該派遣先の事業所に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合が無い場合においては労働者の過半数を代表する者をいう)の意見を聴くことで、3年に限り派遣可能期間を延長することができます。
ただし、上記の図のように「同じ人」を3年以上受け入れることはできません。基本的には3年経過後には異なる派遣労働者を受け入れることになります。
ただし、異なる課であれば同じ派遣先であっても同じ特定技能人材の派遣を受けることもできます。この場合で、農業も漁業も異なる業務区分に異動する場合には、従事する予定の「特定技能評価試験」に合格するなどした上で、「特定技能雇用契約に係る届出書」を提出します。
派遣先管理台帳の作成について
派遣先は、派遣就業に関し、派遣先管理台帳を作成しなければなりません。また、登録支援機関は派遣先からの報告を踏まえて、活動状況に係る届出を行わなければなりません。
派遣先は、厚生労働省令で定めるところにより、派遣就業に関し、派遣先管理台帳を作成し、当該台帳に派遣労働者ごとに次に掲げる事項を記載しなければならない。
労働者派遣法第42条
一 無期雇用派遣労働者であるか有期雇用派遣労働者であるかの別
二 第40条の2第1項第2号の厚生労働省令で定める者であるか否かの別
三 派遣元事業主の氏名又は名称
四 派遣就業をした日
五 派遣就業をした日ごとの始業し,及び終業した時刻並びに休憩した時間
六 従事した業務の種類
七 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項
八 紹介予定派遣に係る派遣労働者については,当該紹介予定派遣に関する事項
九 教育訓練(厚生労働省令で定めるものに限る。)を行った日時及び内容
十 その他厚生労働省令で定める事項
3 派遣先は,厚生労働省令で定めるところにより,第1項各号(第3号を除く。)に掲げる事項を派遣元事業主に通知しなければならない。
まとめ
以上、特定技能の派遣形態について解説しました。
特定技能で派遣形態が認められているのは、農業と漁業の2分野になります。派遣元は、派遣免許を持っているだけでなく、農業や漁業に関する別の要件も満たしている必要があります、また、派遣先・派遣元それぞれが特定技能を受け入れるために満たす必要のある条件・ポイントがあります。
農業・漁業でシーズンがある収穫物の場合、収穫期に合わせて人材を確保するのが困難な場合もあると思います。その時には、派遣形態の特定技能を検討されるのも一つの解決策だと思います。
【行政書士からのアドバイス】
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