海外の本社・支社・関連会社から日本の本社・支社 ・関連会社へ転勤をする場合、「企業内転勤」という在留資格(ビザ)を取得します。海外からの転勤であれば誰でもどのような業務内容であっても取得できるという訳ではなく、一定の要件を満たさなければなりません。本編では、海外の 本社・支社・関連会社に所属する人材が日本の企業へ転勤や出向する場合の在留資格(ビザ)の要件や手続きについて解説をします。
在留資格『企業内転勤』とは
そもそも在留資格とは何かについて説明します。そのうえで在留資格『企業内転勤』について紐解いていきましょう。
そもそも在留資格とは
在留資格」とは、外国人が合法的に日本に上陸・滞在し、活動することのできる範囲を示したものです。2021年12月現在29種類の在留資格があります。在留資格は「ビザ」という名称で呼ばれることが多いです。
在留資格は、活動内容や身分(配偶者・子など)によって割り当てられています。日本に滞在するすべての外国人が、何かしらの在留資格を持っているということになります。よって、外国人は活動内容や身分(ライフスタイル)に合わせて、在留資格を変更しながら日本に滞在することになります。
例えば、上記の方の場合、日本語学校の学生の間は「留学」ビザで活動します。その後、料理人になった場合は「技能」というビザに切り替えなければなりません。また、独立開業してレストランの経営者になった場合は「経営・管理」ビザを取得します。もし、将来、日本への永住を決意し一定の要件を満たしているようであれば、「永住者」ビザを取得することもできます。
在留資格の一覧は下記になりますが、言い換えると以下に当てはまるものがない場合は、日本での滞在はできないということになります。
在留資格『企業内転勤』とは
在留資格『企業内転勤』は、入管法において下記の活動をするための在留資格として定められています。名前の通り、海外にある企業(親会社や関係会社)に雇用されている人材が日本の支店や関係会社等で勤務するための在留資格です。転勤や出向の場合が該当します。
特に重要になるポイントは、「人材に係る要件」「“どこ”と “どこ” の転勤なのか」 「人材に係る要件」 「業務内容」です。
「どこ」と「どこ」の転勤なのか
「企業内転勤」が認められる具体的な移動の範囲は以下の通りです。
- 本店(社)と支店(社)・営業所間の異動
- 親会社・子会社間の異動
- 親会社・孫会社間の異動
- 親会社・孫会社間及び子会社・孫会社間の異動
- 子会社間の異動
- 孫会社間の異動
- 関連会社への異動(親会社と関連会社、子会社と子会社の関連会社間のみ)
ここでいう「親会社」とは、他の会社等の財務及び営業、事業の方針を決定する機関を支配している会社を指します。具体的には、議決権の過半数を持っている場合(事実上を含む)や、その企業の役員が親会社の役員の構成員の過半数を占めている場合、財務や営業、事業の方針の決定を支配する契約等が存在すること、資金調達額の総額の過半以上の融資を行っていることなどが該当します。
また、「関連会社」とは、会社が出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて子会社以外の他の会社等の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与える場合を指します。
人材に係る要件
そもそも海外転勤とは、日本にある企業で一から人材を採用して育成するよりも海外の本社や支社・関連会社ににいる人材を異動させた方が合理的な場合に起こり得ることが想定されます。そして、この在留資格『企業内転勤』もそのような場合に取得するべき在留資格になります。
以上の背景から、「人材に係る要件は海外にある関連会社等で継続して1年以上勤務していること」が求められます。
従事可能な業務内容とは
在留資格『企業内転勤』では、在留資格『技術・人文知識・国際業務』で認められる業務をすることができます。『技術・人文知識・国際業務』で認められる活動範囲は下記のように定められております。
本邦の講師の機関との契約に基づいて行う理学、工学、その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、その他の人文科学の分野に属する技術もしくは知識を要する業務部又は外国の文化に基盤を有する思考もしくは感受性を必要とする業務に従事する活動
出入国在留管理庁
もっとざっくりに説明をすると、『技術・人文知識・国際業務』はこのような在留資格になります。
『技術・人文知識・国際業務』という少し長い在留資格名ですが、もともとは『技術』と『人文知識・国際業務』と分かれていました。日本の企業では部門をまたぐ配置転換も多々想定されることもあり、今では『技術・人文知識・国際業務』とひとつの在留資格になっています。(例えば、研究者→マーケティング部への異動や、エンジニア→セールスエンジニア(法人営業)などの異動です。)
※詳細は後述します。
一方で、取締役や部長・支店長クラスが事業の経営や管理を行う場合は在留資格『経営・管理』に該当するため、『企業内転勤』の取得はできません。
給料について
給料においては、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等以上の報酬」を受けることが許可を得るための要件となります。
これは、「海外の本店・支店からの海外送金」であっても、「日本の本店・支社からの支払い」であっても、「両方の合算額」であっても構わないとされています。
転勤期間について
あくまで「転勤」のため、日本の事業所での勤務は一定期間であることが求められます。以前は「5年を超えないこと」というルールがありましたが、今は「一定期間」と明確な年数は定められておらず、また、理由があれば予定以上の日本勤務となった場合でも在留期間の更新が許可されるようになってきています。
▶参考:出入国在留管理庁『企業内転勤』
在留資格『技術・人文知識・国際業務』との比較
在留資格『企業内転勤』では、活動できる業務内容は在留資格『技術・人文知識・国際業務』と同じ内容と決められています。具体的な業務内容や『技術・人文知識・国際業務』との比較をします。
在留資格『技術・人文知識・国際業務』で認められる業務内容について
在留資格『技術・人文知識・国際業務』では、「学術的素養を背景にした、一定水準以上の専門的知識を要する活動」や「外国の文化に基盤を有する思考もしくは感受性を必要とする業務」をすることが求められます。
分かりやすく表現すると「単純作業」のようなマニュアルを読み訓練をすれば習得できる業務はできません。例えば、工場で生産ラインに入って行うような単純作業、飲食店での配膳・接客・調理の業務、伝票整理などの事務作業や農作業はできません。また、一見すると高度な業務内容に見えるものでも「技能」に位置づけられる業務(訓練によって習得できる業務)で、例えば自動車整備(自動車整備士3級レベル)や、フライス盤の操作による金属加工、精密機器の保守メンテナンスも該当しない場合があります。
できる業務としては、以下のようなものが代表的な例になります。
- システムエンジニア
- 航空宇宙工学等の技術・知識を必要とする航空機の整備
- 精密機械器具や土木・建設機械等の設計・開発
- 生産管理
- CADオペレーター
- 研究者
- 法人営業
- マーケティング
- 企画・広報
- 経理や金融、会計などの紺たる譚と業務
- 組織のマネージャー
- 翻訳通訳
- 語学の指導
- 海外取引業務
- 海外の感性を活かしたデザイン
- 商品開発
『企業内転勤』と『技術・人文知識・国際業務』の比較
『企業内転勤』と『技術・人文知識・国際業務』を比較をすると以下の通りです。最も気になるポイントは『技術・人文知識・国際業務』では学歴や実務経験が必要になる部分が『企業内転勤』では不要になる点です。入管はこの学歴不問を逆手に取った「適切でない」申請を特に気にしています。
また、勘違いしがちのポイントとして、『企業内転勤』で行える業務内容は『技術・人文知識・国際業務』と同じであって単純労働などは認められていないため注意をして下さい。
企業内転勤 | 技術・人文知識・国際業務 | |
学歴・職歴 | 海外の関連企業で1年以上勤務 | ・国内外の大卒・短大卒以上 ・日本の専門学校卒(専門士) <翻訳通訳業務の場合> ・国内外の大卒・短大卒以上 ・もしくは3年以上の実務経験 |
業務内容 | 理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動 | 理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動 |
契約主体 | 海外の転勤元 ※転勤に際して新たな雇用契約の締結の必要は無し | 日本の勤務先の事業所のみ |
賃金の支払い | ・海外の転勤元 ・日本の勤務先の事業所 (両方でも可) | 日本の勤務先の事業所のみ |
派遣形態 | 不可 許可を取った事業所のみで勤務 | 可 |
在留期限 | 一定の期間(有限) | 期限の定めのない契約も可 |
家族帯同 | 可 | 可 |
在留資格(ビザ)の申請手続きについて
海外の本社・支社・関連会社から人材を招聘する場合に行う場合には、「在留資格認定証明書交付申請」を行います。在留資格認定証明書交付申請や必要書類について解説します。
在留資格の申請準備~就業開始までの流れについて
海外在住の場合は、就職先企業が代理人となって申請を行います。こちらの場合も、内定に合意し雇用契約の内容が確定した後から申請が可能です。許可がされると「在留資格認定証明書」が交付されます。それを本人に国際郵便等で送り、本人が査証に替えて入国を行います。在留カードは入国時・空港で本人に渡されます。
在留資格の申請時の必要な書類について
在留資格『企業内転勤』で必要になる書類は以下の通りです。
必要書類 |
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・在留資格認定証明書交付申請 ・写真(4cm×3cm) ・パスポート ・返信用封筒(404円分の切手を貼付) ・前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表(受付印のあるものの写し) ・登記簿謄本(履歴事項全部証明書) ・直近年度の決算文書 ・申請人の活動内容を明らかにする次のいずれかの資料 ー(法人を異にしない転勤の場合)転勤命令書の写し、事例等の写し ー(法人を異にする転勤の場合)労働条件通知書 ー(役員等) ・転勤前に勤務していた事業所と転勤後の事業所の関係を示す次のいずれかの資料 ー(法人を異にしない転勤の場合)外国法人の支店の登記事項証明書等当該法人が日本に事業所を有することを明らかにする資料 ー(日本法人への出向の場合)当該日本法人と出向元の外国法人との出資関係を明らかにする資料 ー(日本に事務所を有する外国法人への出向の場合)当該外国法人の支店の登記事項証明書等当該外国法人が日本に事務所を有することを明らかにする資料、当該外国法人と出向元の法人との資本関係を明らかにする資料 ・申請人の経歴を証明する文書(履歴書、過去1年間に従事した業務内容及び地位,報酬を明示した転勤の直前に勤務した外国の機関の文書) |
まとめ
以上、在留資格『企業内転勤』について解説しました。
特に重要なポイントは、「海外にある企業と日本にある企業の関係性」と「日本国内で行う業務内容」です。企業内転勤では、あくまで海外にいる人材を異動させたほうが日本国内で人材を雇用するよりも合理的な場合が想定されます。業務内容は高度人材が従事する内容と同じですが、学歴や職歴の要件のハードルは高くありません。海外の関連会社で1年以上の勤務経験があれば日本に迎い入れることができます。
【行政書士からのアドバイス】
企業内転勤は、意外に審査されるポイントが多くあります。当事務所では、海外にいる人材を招聘するための在留資格も申請サポートも行っております。気になる事があればご質問ください。