従業員の結婚はとても喜ばしいことだと思います。外国籍の方の場合、母国同士の結婚の場合や日本人との結婚など様々です。国際結婚で気になるのがやはり在留資格(ビザ)のことではないでしょうか。その他にも扶養の問題など、おさえておくべきポイントがあります。本日は、外国籍従業員が結婚した場合の対応について解説します。
まずは気になる「在留資格(ビザ)」について
特に日本人と結婚した場合、『日本人の配偶者等』という在留資格に変更する必要があるのか、悩まれるところだと思います。結論、在留資格の変更は必ずしも必要ではありません。
必ずしも「在留資格(ビザ)」を変更する必要はない
結論としては、結婚をしたからといって必ずしも在留資格を変更しなければならないわけではありません。
例えば、在留資格『技術・自分知識・国際業務』で会社員をしている社員が日本人と結婚した場合、『日本人の配偶者等』という在留資格への変更が可能ですが、退職をして無職になるなどの事情がない限りは変更は不要です。『技術・人文知識・国際業務』の在留期間が満了する際に、引き続き『技術・人文知識・国際業務』で在留することも問題ありません。
また、外国人同士で結婚した場合も同様で、引き続き就労ビザで滞在しても問題はありません。
(※学生結婚の場合も同様で、退学するなどの事情がない場合には、在留資格『留学』から配偶者の在留資格に必ずしも変更する必要はありません。)
結婚した場合においては、会社・申請人共に「出入国在留管理庁」に対して届け出る必要はありません。
参考:出入国在留管理庁「Q&A Q.32『私は「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持っており、在留期間もまだ1年ほど残っています。まもなく日本人の女性と結婚する予定ですが、在留資格の変更手続をしなければならないでしょうか。』」
在留資格の変更が必要なケースについて
一方で在留資格の変更が必要なケースとして、退職して会社員をやめる場合などは例え在留期間が残っていても就労ビザのまま滞在できるものではなく、配偶者の方の国籍や在留資格に合わせて速やかに在留資格の変更をする必要があります。
外国籍従業員の結婚によって在留資格の変更が必要になる場合は、基本的には本人が手続きを行うことになるため、会社としては「在職証明」や収入に関する資料を本人に渡すなどの協力が必要になる場合があります。まずは結婚される外国籍従業員の方の今後の生活についてヒアリングを行い、在留資格の変更が必要かどうか確認をするようにして下さい。
『日本人の配偶者等』に変更するメリットとデメリット
在留資格『日本人の配偶者等』はいわゆる“身分系”の在留資格となるため、活動制限がありません。また、永住者の申請や帰化許可申請のための要件が緩和されます。『日本人の配偶者等』を取得することによるメリットとデメリットを解説します。
『日本人の配偶者等』のメリット
- 活動の制限が無くなるため、どのような仕事を行ってもよい
- 仕事を辞めても在留ができる
- 『永住者』の取得のための要件が緩和される(※)
- 日本国籍取得(帰化)のための要件が緩和される(※)
※(適法な)婚姻関係の事実があれば、在留資格を変更しなくても要件は緩和されます。
外国籍の方にとって、就業制限がなくなることは大きなメリットです。日本の在留資格制度では、「就労ビザ」といっても細かく19種類に分かれ、その中で就業可能な業種が決まってきます。転職をする場合にも3ヶ月以内に新しい就業先に入社しなければならず、無職のまましばらく滞在するということは原則認められません。
一方で、在留資格『日本人の配偶者等』の場合は、日本人の配偶者等身分されあればよいため、どのような仕事をしても問題なければ、起業をすることも無職であることも問題ありません。
『永住者』や帰化についても要件が緩和されます。一番大きな部分で、日本の居住要件が大幅に緩和されます。ただしこれは(※)注意書きにもあるように、適法な婚姻関係の事実があればよく、『日本人の配偶者等』の在留資格であることが条件で要件が緩和されるものではありません。(※入管によって対応が違う場合があります。)
『日本人の配偶者等』のデメリット
- 離婚をしたら帰国をするか在留資格の変更をしなければならない
- 『永住者』に必要な「3年」以上の在留資格がなかなかもらえない
『日本人の配偶者等』の場合、離婚や死別をしたら「日本人の配偶者」ではなくなるため、在留資格の変更をしなければなりません。就労ビザの要件に当てはまる場合は就労ビザに変更が可能です。
働いていない場合、子どもがいる場合や日本での生活が長い場合などは『定住者』の在留資格への変更も検討可能です。しかし、どの在留資格にも許可されなかった場合には帰国をしなくてはなりません。
『日本人の配偶者等』で伝えたメリットの一つに『永住者』を申請するための要件が緩和されることを挙げましたが、一方で『永住者』の申請がなかなかできなくなるハードルがあります。『永住者』の申請の場合には、申請時点で「3年」以上の在留資格である必要がありますが、『日本人の配偶者等』の場合「3年」の在留資格をもらうまでに何度も「1年」の在留期間の決定が続く傾向があります。
実際に『日本人の配偶者等』の方で、在留期間が「1年」が続く場合が非常に多く悩まれている方もたくさんいます。結婚して5年以上で子どもがいても「1年」という方もいらっしゃいます。このため、例えば『技術・人文知識・国際業務』や『高度専門職』などで働かれている場合に、既に「3年」や「5年」の在留資格を持っている方は変更すべき事情がない場合は、変更すべきかどうかは慎重に判断をしたほうがよいとも言えます。前述した通り、『永住者』や帰化申請の要件緩和に該当するために在留資格を変更する必要は原則ありません。
雇入企業として気をつけること
冒頭で外国籍従業員の方が結婚されても会社として在留資格に関する手続きは必要はないと説明しました。しかし、日本で生活する以上、日本人同士の結婚時と同じように就業規則に則た福利厚生や社会保険の手続きが発生するため注意が必要です。
「結婚」に関する福利厚生は就業規則通りに
まず、基本的なことですが「外国籍」であることを理由に労働条件を差別することはできません。これは、労働基準法第3条でも明確に書かれています。
使用者は、労働者の国籍、信条、社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件に付いて、差別的取り扱いをしてはならない。
労働基準法 第3条
結婚に関する福利厚生は多くの会社で規定されているのではないでしょうか。
当然、就業規則・賃金規定などで定められた福利厚生を受けるための要件を満たしている場合は、外国籍従業員でも日本人と同様に福利厚生を受ける権利があります。
長期休暇を申出されたら
国際結婚・母国同士の結婚、様々なケースが想定される中で、結婚準備の場合に長期休暇の申出もあるかもしれません。この場合は、就業規則に則て対応すれば問題ありません。
労働基準法においては有給休暇の取得については下記のように定めております。
使用者は、年次有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
労働基準法39条5項
有給休暇は労働者から申し出があった場合は、事業の正常な運営を妨げる場合を除いて拒否することはできません。そもそも「有給」に馴染みの無い場合もあるため、現在、何日の有給が残っていて、いつなら支障なく取得ができるかなど、お互いにわだかまりが起きないようにコミュニケーションをしっかり取るようにしましょう。
配偶者を扶養に入れるかどうか
配偶者を扶養に入れるかどうかは、在留資格や年収によるところがあります。
配偶者の在留資格が『家族滞在』・扶養系の特定活動の場合
大前提、日本に住む方は国籍を問わず社会保険の加入が必要です。これは被扶養者であっても同じです。
特に注意が必要なのが、外国籍同士の結婚で配偶者を在留資格『家族滞在』に変更する場合です。この在留資格は、「配偶者の扶養を受ける」ことが前提に与えられる在留資格になります。就労は認められませんが、「資格外活動許可」を取得することで週28時間までの資格外活動(パートなど)が可能です。
この「扶養を受けている」というのは、結婚生活を送っているということでは足りず、明確な基準は発表されていませんが、(実務上)年収130万円を超えると「扶養の範疇を超えている」と判断されているケースが見られています。年収130万円を超えてしまうと社会保険の扶養の範囲を超えてしまい、社会保険の扶養者の枠から外れてパート先の会社で社会保険に加入をするか、自分で国民年金・国民健康保険に加入をすることになります (参考:日本FP協会) 。
外国籍従業員が結婚に伴って雇用形態を変更する場合などは、この週28時間の就業時間の管理に加えて、社会保険の扶養の範囲であるかどうかの管理も必要になってきます。とにかくも「週28時間の労働上限まで遵守していれば大丈夫」という考え方は、在留資格の維持に影響が出る可能性があるため注意をして下さい。
配偶者の年収による場合
配偶者が日本人の場合や、外国人であっても在留資格『永住者』、『定住者』と一部の特定活動(例:高度専門職の配偶者)である場合は、配偶者の方が扶養に入るか否かは配偶者の年収次第になります。日本人同士の結婚の際と考え方は同じになります。
社会保険についての理解はまだまだ浅い
「健康保険」、「国民年金」、そして「扶養」等の考え方については、文化的に馴染みのない場合が多くあります。これに加えて「在留資格」のポイントも絡んでくるため、お互いにコミュニケーションロスが無いようにしっかりとすり合わせる必要があります。
これは、外国籍従業員が結婚し「配偶者の扶養に入る場合」「配偶者が扶養に入る場合」どちらにも共通して気をつけなければならない点になります。
外国人の結婚後の名前について
外国人の結婚後の名字は、「変更がない場合」「届け出をして外国人配偶者の名字になる場合」「母国の法律や選択によって変更になる場合」「通称名を使用する場合」によって変わってきます。
基本的には、外国籍の方が日本人と結婚した場合でも、名字は変更になりません。日本人との結婚の場合は名字は戸籍を一つにすることで変更になりますが、外国籍の場合は戸籍に入ることは無いため名字は変更になりません。
ただし、結婚を機会に(配偶者の方と名字を統一するために)通称名を使われる方もいらっしゃいます。
また、 結婚から6ヶ月以内に「外国人配偶者の氏への氏変更届」を提出することにより、 日本人は外国人配偶者の名字を使用することができます。この場合は、戸籍の名字が変わります。
外国人同士の結婚の場合、名字が変更になるかどうかは国籍次第(母国のルール次第)になります。手続きが必要になる場合があるため、念のため確認されるのがよいと思います。
まとめ
以上、外国籍従業員が結婚した場合に会社として対応すべきことを解説しました。
在留資格の変更は必ずしも必要はなく、状況と本人の希望に応じて変更を行うことになります。配偶者が扶養に入る場合や、結婚に伴い雇用形態が変わる場合など、基本的には日本人の場合と同様の手続きを行いますが、在留資格の視点から注意しなければならないポイントもあります。結婚はプライベートなことではありますが、お互いに認識をすり合わせておくことは大事なことになります。