日本には世界の優秀な人材を呼び込むための制度のひとつに在留資格『高度専門職』があります。高度専門職は、ポイント制になっていて公表されているポイント表の合計が70点以上の人が取得することができます。高度専門職はほかの在留資格と比較して優遇されている措置もあり積極的に活動したい在留資格のうちの1つです。
在留資格とは
「在留資格」とは、外国人が合法的に日本に上陸・滞在し、活動することのできる範囲を示したものです。2022年3月現在29種類の在留資格があります。在留資格は「ビザ」という名称で呼ばれることが多いです。
在留資格は、活動内容や身分(配偶者・子など)によって割り当てられています。日本に滞在するすべての外国人が、何かしらの在留資格を持っているということになります。よって、外国人は活動内容や身分(ライフスタイル)に合わせて、在留資格を変更しながら日本に滞在することになります。
例えば、上記の方の場合、日本語学校の学生の間は「留学」ビザで活動します。その後、料理しになった場合は「技能」というビザに切り替えなければなりません。また、独立開業してレストランの経営者になった場合は「経営・管理」ビザを取得します。もし、将来、日本への永住を決意し一定の要件を満たしているようであれば、「永住者」ビザを取得することもできます。
在留資格の一覧は下記になりますが、言い換えると以下に当てはまるものがない場合は、日本での滞在はできないということになります。
では、『高度専門職』について解説していきます。
在留資格『高度専門職』とは
『高度専門職』は、2012年5月より始まった在留資格で高度外国人材の受入れを促進するために、ポイント制を活用した優遇措置です。日本で積極的に受け入れるべき「高度外国人材」とは、「国内の資本・労働とは補完関係にあり、代替することができない良質な人材」と位置付けています。こういった優秀な人材に日本で働いてもらうために、優遇措置が設けられています。これについては後述します。
高度専門職には1号・2号とあり、1号はさらにイ・ロ・ハと分かれます。
『高度専門職1号』について
- 高度専門職1号(イ):本邦の公私の機関との契約に基づいて行う研究、研究の指導又は教育をする活動
→主に「教授」「研究」又は「教育」の在留資格に相当する活動と重複する - 高度専門職1号(ロ):本邦の公私の機関との契約に基づいて行う自然科学又は人文科学の分野に属する知識又は技実を要する業務に従事する活動
→主に「技術・人文知識・国際業務(※国際業務は除く)」「企業内転勤」「教授」「芸術」「報道」「経営・管理」「法律・会計」「医療」「研究」「教育」「介護」「興行」の在留資格に対応する活動を行う場合も重複し得る。 - 高度専門職1号(ハ):本邦の公私の機関において事業の経営を行い又は管理に従事する活動
→主に「経営・管理」に相当する活動
『高度専門職1号』は在留期間が5年が付与されることに加え、活動内容や家族の在留、家事使用人の雇用、永住申請に必要な居住年数などで優遇されます(詳しくは後述します)。
『高度専門職2号』について
- 1号のように(イ)(ロ)(ハ)に分かれておらず、1号の内容に加えてほぼすべての就労資格の活動を行うことができる。
- 1号で3年以上活動していた人に与えられる。
『高度専門職』の在留期間は1号は5年、2号は無期限です。ただし、「2号の無期限」は「永住者」ではないということに注意が必要です。高度専門職はその活動をしている間に与えられる在留資格のため、無職の状態は認められないことになります。永住者はその点無職でも問題ありませんので(在留資格的には)、大きな違いとなります。
また、要件を満たせば家族の帯同も認められるだけでなく、一定の条件下で親の帯同や家事使用人の帯同も認められます。
参考:出入国在留管理庁『高度人材ポイント制による出入国在留管理上の優遇制度について』
『高度専門職』の上陸許可基準
『高度専門職』について、上陸基準省令について下記のように定められています。
申請人が出入国管理及び難民認定法別表第一の二の表の高度専門職の項の下欄の基準を定める省令(平成二十六年法務省令第37号)第一条第一項に掲げる基準に適合することの他、次の各号のいずれにも該当すること。
第一号 次のいずれかに該当すること。
イ 本邦において行おうとする活動が法別表第一の一の表の教授の項から報道の項までの下欄に掲げる活動のいずれかに該当すること。
ロ 本邦において行おうとする活動が法別表第一の二の表の経営・管理の項から技能の項までの下欄に掲げる活動のいずれかに該当し、かつ、この表の当該活動の項の下欄に掲げる基準に適合すること。第二号 本邦において行おうとする活動が我が国の産業及び国民生活に与える影響等の観点から相当でないと認める場合でないこと。
上陸基準省令
上記は、『高度専門職1号』の在留資格を取得できる外国人について定められたものです。
『高度専門職1号』の在留資格を取得する場合、「教授」「芸術」「宗教」「報道」「経営・管理」「法律・会計業務」「医療」「研究」「教育」「技術・人文知識・国際業務」「企業内転勤」「介護」「興行」もしくは「技能」のいずれかの在留資格で在留することができなければなりません。この上で、ポイント制70点以上と認められた場合に『高度専門職1号』の在留資格が許可されます。
『技術・人文知識・国際業務』の活動に関しては、国際業務に関する活動内容は除かれます。
「ポイント評価で70点以上」+「いずれかの在留資格の要件を満たす必要がある」ということになります。
『高度専門職』の注意点
高度専門職1号の場合、所属機関名(会社名)と会社所在地が記載された「指定書」がパスポートに貼られます。つまり、その所属機関を前提として高度専門職ビザを許可しているため、転職する際には改めて「在留資格変更許可申請」を申請しなければなりません。
そのため、転職が多いジョブホッパーの方にとっては、使いにくい在留資格になるかもしれません。在留期間「5年」だけが目的であれば、『技術・人文知識・国際業務』でも十分な場合もあります。
高度専門職2号の方は無職の期間が6ヶ月以上になる場合は、在留資格を変更するか帰国をしなければなりません。
ポイント制について
高度専門職1号(イ)、(ロ)、(ハ)の方は下記のポイント計算表で点数を計算していきます。
ポイントとなる要素は「学歴」「職歴」「年収」「年齢」とボーナス部分「実績」「資格」「政策」があります。
ポイント制の全体像
『高度専門職1号』は、ポイント制の評価項目から採点され70点以上と認められた場合に許可されます。
ポイント制は「学歴」「職歴」「年収」「年齢」と「ボーナス」部分から構成されています。「ボーナス」部分には「実績」「資格」「学歴」「政策」などの要素で構成されております。
(ロ)と(ハ)に該当する人共通のポイントとして、年収300万円以上でなければなりません。
在留資格の申請の際には、上記のポイント表を満たしていることを示す証拠書類を添付して申請することになります。
ポイント制を構成している要素について
ポイント制を構成している要素は、 「学歴」「職歴・実績」「年収」「年齢」「資格」「政策」があります(このHP内の独自分け方になります。)
学歴
学歴に関する要素は以下の5点あります。
No | 分野 | 項目 | 点数 |
---|---|---|---|
1 | (イ)(ロ) | 博士号(専門職に係る学位を除く。)取得者 | 30 |
2 | (イ)(ロ) (ハ) | 修士号(専門職に係る博士を含む。)取得者 ※(ハ)の場合は博士号も含む | 20 |
3 | (イ)(ロ) (ハ) | 複数の分野において、博士号、修士号、専門職学位を複数有している者 | 5 |
4 | (イ)(ロ) (ハ) | 日本の高等教育機関において学位を取得 | 10 |
5 | (イ)(ロ) (ハ) | 法務大臣が告示で定める大学を卒業した者 | 10 |
大学卒業以上でポイントが加算されます。日本の大学を卒業していた場合や複数の分野で学位を取得されている場合はさらにポイントが加算されます。
5の「 法務大臣が告示で定める大学を卒業した者 」については以下のリンクからご確認下さい。
- 世界大学ランキングに基づき加点対象となる大学(PDF)
- スーパーグローバル大学創成支援事業(トップ型及びグローバル化牽引型)において補助金の交付を受けている大学(文部科学省ホームページにリンクします。)
- 外務省が実施するイノベーティブ・アジア事業において「パートナー校」として指定を受けている大学(PDF)
- ノベーティブ・アジア事業(外務省ホームページにリンクします。)
職歴・実績
No | 分野 | 項目 | 点数 |
---|---|---|---|
1 | (イ) (ロ) | これから行おうとする実務の実務経験年数が 10年以上 | (ロ) 20 /(ハ) 25 |
2 | (イ)(ロ) (ハ) | 〃 7年以上 | (イ・ロ) 15 /(ハ) 20 |
3 | (イ)(ロ) (ハ) | 〃 5年以上 | (イ・ロ) 10 /(ハ) 15 |
4 | (イ)(ロ) (ハ) | 〃 3年以上 | (イ・ロ) 5 /(ハ) 10 |
5 | (イ)(ロ) | 特許の発明 1件以上 | (イ)20/(ロ) 15 |
6 | (イ)(ロ) | 入国前に公的機関からグラントを受けた研究に従事した実績3件~ | (イ)20/(ロ) 15 |
7 | (イ)(ロ) | 研究論文の実績については、我が国の国の機関において利用されている学術論文データベースに登録されている学術雑誌に掲載されている論文(申請人が責任著者であるものに限る。)3本以上 | (イ)20/(ロ) 15 |
8 | (イ)(ロ) | 5-7の項目以外で、同等の研究実績があると申請人がアピールする場合(著名な賞の受賞歴等)、関係行政機関の長の意見を聴いた上で法務大臣が個別にポイントの付与の適否を判断 | (イ)20/(ロ) 15 |
9 | (ハ) | 経営する事業に1億円以上の投資を行っている者 | 5 |
これから行う業務内容に関する実務経験が長いほど加算されるポイントも大きくなります。5~8は研究実績に係るものになります。
年収
「(ハ)学術研究分野」「(ロ)技術分野」の場合は、年齢区分に応じポイントが付与されます。
No | 分野 | 項目 | 点数 |
---|---|---|---|
1 | (ハ) | 3000万円以上 | 50 |
2 | (ハ) | 2500万円以上 | 40 |
3 | (ハ) | 2000万円以上 | 30 |
4 | (ハ) | 1500万円以上 | 20 |
5 | (ハ) | 1000万円以上 | 10 |
『高度専門職』の場合、最低年収基準があります。「(ロ)技術分野」及び「(ハ)経営・管理」分野においては、年収300万円以上でなければ例え70点以上あっても許可されません。
年収のポイントは、(イ)(ロ)の場合は、より若くてより年収が高いほうがポイントは大きくなります。(ハ)の場合は、年収が高いと加算されるポイントが高くなります。
年齢
No | 分野 | 項目 | 点数 |
---|---|---|---|
1 | (イ)(ロ) | ~29歳 | 15 |
2 | (イ)(ロ) | ~34歳 | 10 |
3 | (イ)(ロ) | ~39歳 | 5 |
(イ)(ロ)の場合、年齢が若いだけでポイントが加算されます。
20代で15ポイント、30代で5~10ポイントが加算されます。
【ボーナス①】資格
No | 分野 | 項目 | 点数 |
---|---|---|---|
1 | (ハ) | 代表取締役、代表執行役 | 10 |
2 | (ハ) | 取締役、執行役 | 5 |
3 | (ロ) | 職務に関連する日本の国家資格の保有(一つ5点) | 10 |
4 | (イ)(ロ) (ハ) | 職務に関連する外国の資格等 | 5 |
5 | (イ)(ロ) (ハ) | 日本語能力試験N1取得者又は外国の大学において日本語を専攻して卒業した者 ※BJT480点以上の得点取得者も含む | 15 |
6 | (イ)(ロ) (ハ) | 日本語能力試験N2取得者 ※BJT400点以上の得点取得者も含む | 10 |
3の「職務関する日本の国家資格」についてはその通りで、あくまでもこれから行おうとする業務内容に関連する資格に限ります。関係のない国家資格はカウントされないため注意が必要です。このため、一見関係の内容に見えても実際は関係のある場合は、しっかりとその理由を説明をする必要があります。
例:行政書士資格、キャリアコンサルタント
→「行政書士事務所」に就職では、5点しか加算されない場合でも、「外国人に対して在留資格・就活のアドバイスを就職者に対して行う」という業務内容であれば10点加算される場合があります。資格の証書を添付するだけで当然に、ポイント加算にならない場合があるため注意が必要です。
4の「職務に関連する外国の資格等」については下記をご確認下さい。
外国の資格・表彰等一覧(PDF)
5、6の日本語能力については、日本語能力検定、BJT、大学で日本語学科を卒業の3つの資格で判断されます。
これ以外の日本語能力を図る試験ではどんなに日本語能力が高くても認められません。
【ボーナス②】政策
No | 分野 | 項目 | 点数 |
---|---|---|---|
1 | (イ)(ロ) (ハ) | イノベーションを促進するための支援措置(法務大臣が告示で定めるもの)を受けている機関における就労 ※就労する機関が中小企業である場合には別途10点の加点 | 10 |
2 | (イ)(ロ) (ハ) | 試験研究費率等比率が3%超の中小企業における就労 | 5 |
3 | (イ)(ロ) (ハ) | 成長分野における先端的事業に従事する者(法務大臣が認める事業に限る) | 10 |
4 | (イ)(ロ) (ハ) | 法務大臣が告示で定める研修を終了した者 ※本邦の高等教育機関における研修については、「本邦の高等教育機関において学位を取得」でポイント獲得をした者を除く | 5 |
6 | (ロ) (ハ) | 投資運用事業等に係る業務に従事 | 10 |
国が政策で成長させたい分野などは加点がつきます。主に医療や宇宙、AIなどの研究開発やそれにまつわる事業が多くなっています。これらの事業には世界中から優秀な人材を登用できるようバックアップすることが目的です。また最近では国家戦略特別区域における金融分野における加点も始まっています。
1の「 イノベーションを促進するための支援措置(法務大臣が告示で定めるもの)を受けている機関における就労 」については下記のリンクをご確認下さい。
イノベーション促進支援措置一覧(PDF)(法務省告示別表第1及び別表第2をご覧ください。)
3の「 成長分野における先端的事業に従事する者(法務大臣が認める事業に限る) 」については下記をご確認下さい。
将来において成長発展が期待される分野の先端的な事業一覧(PDF)
6の「 投資運用事業等に係る業務に従事 」 については下記もご確認下さい。
国家戦略特別区域高度人材外国人受入促進事業(PDF)
▶出入国在留管理庁『ポイント評価の仕組みは?』
『高度専門職』の優遇制度について
『高度専門職』は積極的に日本に呼びたい人材であるため、他の在留資格と比較しても優遇されます。主な優遇ポイントは、付与される在留期間、永住許可申請の要件緩和、家族や家事使用人の在留資格についてなどがあります。
『高度専門職1号』の優遇ポイント
- 複合的な在留活動の許容
⇒通常は許可された1つの在留資格で認められている活動しかできませんが、高度外国人材は例えば大学での研究活動と併せて関連する事業を経営する活動を行うなど複数の在留資格にまたがるような活動を行うことができます。 - 在留期間「5年」の付与
⇒一律「5年」が付与され、更新も可能です - 在留歴に係る永住要件の緩和
⇒70点以上の方:高度人材として引き続き3年以上の場合に永住許可の対象となる
⇒80点以上の方:高度人材として引き続き1年以上の場合に永住許可の対象となる - 配偶者の就労
⇒在留資格「教育」、「技術・人文知識・国際業務」などに該当する活動を行う場合でも学歴職歴要件を満たさなくても取得可能 - 一定の条件の下での親の帯同許容
- 一定の条件の下での家事使用人の帯同許容
- 入国・在留手続きの優先処理
⇒認定申請の場合は10日以内
⇒変更・更新の場合は5日以内
『高度専門職2号』の優遇ポイント
- 『高度専門職1号』で認められる活動のほか、その活動と併せて就労に関する在留資格で認められるほぼ全ての活動を行うことが可能
- 在留期間が「無期限」
- 『高度専門職1号』の場合の3~6の優遇措置
以上から、在留資格『高度専門職』をお持ちの方は、様々な面から優遇されます。
在留期間更新時には、そのまま『高度専門職1号』を継続するか、2号に切り替えるか永住を申請するか選択肢の幅は広いのも特徴です。
まとめ
以上、在留資格『高度専門職』について説明致しました。
この在留資格は、高度人材の方が日本で働きやすいように設けられた在留資格です。『技術・人文知識・国際業務』のなかでも、「技術」「人文知識」の業務内容や、研究開発をする方が取得できる在留資格です。ポイント制になっていて基準も明確な上に、審査期間も圧倒的に短い為、活用されることをお勧めいたします。