
日本のDX推進が加速する一方、深刻なIT人材不足は多くの企業にとって喫緊の課題となっています。この課題を乗り越えるため、国籍を問わず優秀なITエンジニアを確保しようとする動きが、近年ますます活発になっています。しかし、外国籍人材の採用には「在留資格(ビザ)」という壁が存在します。特に「技術・人文知識・国際業務」ビザ(いわゆる技人国ビザ)は、外国人ITエンジニアが日本で働くために最もよく利用される在留資格の一つです。
本記事では、これから外国人ITエンジニアの採用を考える企業担当者向けに、「技人国ビザ」の基本から実務的なポイント、手続きの流れ、必要書類、よくある質問までを徹底解説します。
そもそも在留資格「技術・人文知識・国際業務」とは?
外国人材が日本で適法に働くためには、その活動内容に応じた在留資格(通称:就労ビザ)の取得が不可欠です。数ある就労ビザの中でも、大学卒業者や一定の実務経験を持つホワイトカラーの専門職人材の多くが取得するのが、この「技術・人文知識・国際業務」ビザです。通称として「技人国(ぎじんこく)」ビザとも呼ばれています。これは、大学卒業者や一定の実務経験を持つホワイトカラーの専門職人材の多くが取得している代表的な就労ビザの一つであり、ITエンジニアの他には、マーケティング職など専門知識を要する業務に従事する外国人を対象としています。
もちろん、外国人ITエンジニアが就労できる在留資格はこれだけではありません。「高度専門職1号」といったさらに専門性の高いビザや、活動制限のない身分系の在留資格(永住者、日本人の配偶者等など)で働く方もいます。
しかし、外国人ITエンジニア採用を考える上で、まず理解すべきなのはこの「技術・人文知識・国際業務」ビザになります。
【最重要】ビザ取得の3大要件とITエンジニアのケース
ITエンジニアを「技術・人文知識・国際業務」ビザで採用するにあたり、入管審査で最も重視されるのが、次の3つの要件です。企業側が「優秀だから雇いたい」という気持ちがあっても、形式的要件をクリアしていなければビザは下りません。以下、ITエンジニアの場合を例に、それぞれの要件を詳しく見ていきましょう。
ポイント①学歴・職歴要件について
ITエンジニアが「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の許可をもらうためには、下記の【いずれか】を満たす必要があります。
- 学歴要件
大学(短大含む。国内外問わず)、または同等以上の教育を受けている、または所定の要件を満たす専修学校(日本国内)の専門課程を修了している
※最終学歴が専修学校の場合は、専攻した科目と日本において従事しようとする業務が関連していることが必要です。なお、大学における専攻科目との関連については緩やかに判断されます。 - 職歴要件
10年以上の実務経験(大学等で関連科目を専攻した期間を含む) - 日本の情報処理技術者試験及び相互認証を受けた試験
※詳細は下記のリンクへ
・『技術・人文知識・国際業務係る基準の特例を定める件』http://www.moj.go.jp/isa/laws/nyukan_hourei_h09.html
・『情報処理技術者試験の海外との相互認証について』https://www.ipa.go.jp/jinzai/asia/kaigai/001.html[/su_box]
ポイント②業務内容について
日本で行う業務内容が「技術・人文知識・国際業務」の範囲内でなければ許可は下りませんが、ITエンジニアの業務については、「技術・人文知識・国際業務」で許可が概ね出る業務ですので、ここについては問題ありません。
申請時には、雇用契約書や雇用理由書で、担当する業務内容を具体的に記載することが重要です。「システム開発業務」といった曖昧な表現ではなく、「Java、PHPを用いたWebアプリケーションの要件定義・設計・開発」「AWS環境におけるサーバーインフラの構築・運用・保守」のように、使用する言語や技術、担当工程を明確にするとよりよいでしょう。
ポイント③報酬について
最後は報酬に関する要件です。これは、外国人材の生活の安定と、不当な低賃金労働を防止するという重要な目的を持っています。基準となるのは、「日本人が同種の業務に従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」という一点です。法律で「〇〇円以上」といった明確な金額が定められているわけではありませんが、外国人であることを理由に不当に低い給与で雇用することは認められていません。
注意点として、これは最低賃金をクリアしていれば良いという話ではありません。あくまで専門職としての業務内容に見合った、日本人と同水準の報酬が支払われることが前提になります。
【手続きの流れ】採用決定から就業開始までのステップ
外国籍の場合、内定後すぐに就職できるわけではないため注意が必要です。すでに就労可能な在留資格をもっていない場合は、在留資格の取得もしくは変更申請が必要です。この在留資格の手続きには、審査期間があることから数か月かかることがあります。
手続きは「内定後~入社前」と「入社後」に大きく分かれます。


外国籍人材が日本にいる場合と海外にいる場合で考え方は異なりますが、基本的なルールとして「就業を開始する前」までに在留資格の「取得」が完了していなければなりません。申請から許可まで数か月に審査期間が及ぶ場合もありますが、「許可」を得て新しい在留カードを得るまでは活動はできません。
ITエンジニアの場合で、在留資格の手続きが必要になる場合は主に3パターンです。
- パターンA:海外在住のエンジニアを呼び寄せる場合(在留資格認定証明書交付申請)
- パターンB:日本在住の留学生採用する場合(在留資格変更許可申請)
- パターンC:日本在住の既に就労ビザで働いている外国人を採用する場合
パターンA:海外在住のエンジニアを呼び寄せる場合(在留資格認定証明書交付申請)
パターンAの場合は、「在留資格認定書交付申請」を行います。就職先の会社の人が代理人となって申請をします。認定証明書が発行されたら母国にいる本人に郵送し、本人が査証に変えて入国することになります。
パターンB:日本在住の留学生採用する場合(在留資格変更許可申請)
パターンBの場合は、「留学」ビザから切り替えを行うために「在留資格変更許可申請」をします。注意点としては、申請結果の許可が下りて在留カードの切替が完了してからでないと就労できないことです。審査期間も半年に及ぶ場合があります。間違っても見切りで入社することが無いようにしてください。
また、新卒採用の場合、例えば入社前年の6月に内定出しをすることもありますが、この場合は、学生を卒業するまでは「留学」ビザでなければなりません。そのため、例年12月から新卒の方の変更申請の受付が始まるため、それまで申請はできません。
パターンC:日本在住の既に就労ビザで働いている外国人を採用する場合
また、在留資格「高度専門職1号」や「特定活動46号」など、指定書で就業先が指定されている在留資格で働いている場合、当該在留資格が契約を交わす就職先を指定して取得するものであるため、就職先が変更になる場合は在留期限が残っていても「在留資格変更許可申請」を行わなければなりません。
一方ですでに「技術・人文知識・国際業務」を持っている方を採用した場合は、在留資格変更許可申請を提出する必要はありません。この場合は、入管に対して「所属機関に関する届出」を行います。
【実践編】企業と本人が準備すべき必要書類リスト
下記は、「技術・人文知識・国際業務」を申請する場合の必要書類リストになります。該当するカテゴリーによっては、必要な書類が変わってきます(下記が一番多い状態で、カテゴリー1、2に該当する場合は省略が可能。カテゴリーについてはこちら)
企業が準備する書類 |
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・在留資格変更許可申請書/在留資格認定証明書交付申請 3枚目、4枚目 ・カテゴリーを証明する書類 →前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計票等 ・労働条件通知書 ・履歴事項全部証明書(登記簿謄本) ・直近年度の決算文書の写し |
外国人が準備する書類 |
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・在留資格変更許可申請書/在留資格認定証明書交付申請 1枚目、2枚目 ・証明写真(4cm×3cm) ・パスポート ・在留カード(変更申請の場合) ・学歴を証明する卒業証明書及び学位取得の証明書、今までの職歴・経歴を示す文書 等 合格証、今までの職歴・経歴を示す文書 等 |
※必要書類については、在留状況や就職先の状況によっても変わります。
▶参考:出入国在留管理庁 在留資格「技術・人文知識・国際業務」
ITエンジニアのビザ申請に関するQ&A
これまでの解説で「技術・人文知識・国際業務」ビザの全体像をご理解いただけたかと思います。本章では、それでもなお企業の採用担当者様からよくお寄せいただく、細かいけれど重要な質問についてQ&A形式でお答えします。
Q1: 審査期間はどのくらいかかりますか?
A1: ケースバイケースですが、出入国在留管理庁が示す標準処理期間は以下の通りです。
- 海外から呼び寄せる場合(在留資格認定証明書交付申請):約1ヶ月~3ヶ月
- 日本在住者を採用する場合(在留資格変更許可申請):約2週間~1ヶ月
ただし、この期間はあくまで目安です。実際の審査期間は、①申請時期(1月~4月は繁忙期で遅延傾向)、②申請企業の規模や実績(新設法人は慎重な審査で時間がかかる傾向)、③申請内容の複雑さ、などによって大きく変動します(現状、東京入管では5か月以上かかるケースも少なくありません)。
採用計画には審査期間も考慮し、余裕を持ったスケジュールで申請準備を進めることが重要です。
Q2: 文系の大学を卒業していますが、ITエンジニアとしてビザは取れますか?
A2: はい、文系学部出身という理由だけで不許可にはなりません。大卒以上の場合は、勉強した内容と業務内容の関連性は比較的緩やかに審査されるとされています。一方、日本の専門学校を卒業した方の場合、専門学校でプログラミングを専門的に学んでいる必要があります。
当事務所では、文系学部出身の方のITエンジニアの許可事例は多くあります。
Q3: 不許可になった場合、再申請はできますか?
A3: 再申請は可能ですが、不許可になった原因を分析せずに再挑戦しても、再び不許可となる可能性が極めて高いです。まず最初にすべきことは、必ず入管に出向き、不許可理由の説明を受けることです。(申請者本人または申請取次行政書士が確認できます)
理由の多くは、「学歴と業務内容の関連性不足」「事業の安定性への懸念」「提出資料の不備」などです。その理由を正確に把握し、指摘された問題点を解消するための具体的な対策(例:業務の専門性を補足する資料の追加など)を講じた上で、再申請に臨む必要があります。
一度不許可になると、次回の審査はより慎重になります。安易な再申請は避け、専門家と相談の上で、万全の準備を整えることを強くお勧めします。
まとめ
ITエンジニアを外国人材として採用するには、「技術・人文知識・国際業務」ビザの要件を正確に理解し、業務内容・学歴職歴・報酬条件を的確に整えることが重要です。適切な手続きと書類準備を行えば、外国人エンジニアの円滑な受け入れが可能になります。採用担当者は制度を正しく把握し、安心して採用活動に取り組みましょう。