外国人ITエンジニアのリモートワーク、在留資格への影響は?企業が知るべき注意点

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外国人ITエンジニアの雇用は、日本企業にとって重要な戦力確保手段となっています。加えて、コロナ禍以降に定着したリモートワークの導入は、働き方の柔軟性を高める一方で、在留資格との整合性という新たな課題も浮かび上がっています。本記事では、特に「技術・人文知識・国際業務」ビザを中心に、外国人エンジニアのリモートワークに関する注意点を整理し、企業としての適切な対応策を解説します。

前提知識:リモートワークと在留資格「技術・人文知識・国際業務」

外国人ITエンジニアが取得する代表的な在留資格である「技術・人文知識・国際業務(技人国)」について解説します。

「技人国」ビザの基本要件(学歴・職歴、業務内容の専門性)

外国人ITエンジニアが取得する代表的な在留資格が「技術・人文知識・国際業務(技人国)」です。ITエンジニアの他には、マーケティング職など専門知識を要する業務に従事する外国人を対象としています。申請には、大学卒業以上、もしくは日本の専門学校を卒業以上の学歴か、10年(国際業務は3年)以上の実務経験が求められます。
原則として、日本にある企業と契約を結び、相当の報酬を得て日本国内で活動することが前提の在留資格になります。

在留資格の大原則:「日本国内での活動」と「活動拠点」の考え方

なぜリモートワークの可否が、在留資格の問題に繋がるのでしょうか。それは、全ての在留資格が日本国内で行う「活動」に対して許可される、という大原則があるためです。
従来、この活動の拠点は申請書に記載された「勤務地」、つまり企業のオフィスと見なされてきました。入管は、その場所で申請内容通りの業務が行われることを前提に審査を行っています。

しかし、リモートワークの普及により、従業員の自宅なども実質的な「活動拠点」となり得ます。そのため、オフィス以外の場所で働く場合でも、在留資格で許可された範囲の活動を、企業の適正な管理下で行っていることを証明する必要があります。次章からは、この点を具体的に見ていきましょう。

実際に、当事務所が属する行政書士会主催の研修会で、東京入管の審査官が在留資格「技術・人文知識・国際業務」で働く外国人のリモートワークについて下記のように説明されていました。

活動の方法がリモートワークのみを以て不許可にすることはありません。「活動」に対して許可を出している以上、その活動が適切に行われているのか、活動実態把握する仕組み(労務管理や指示監督)が機能しているかどうかを踏まえて判断しています。

つまり、一律に「リモートワーク」だから在留資格申請を不許可にしている、ということはありません。外国人のリモートワーカーについては、活動実態を把握する仕組みがあることが重要になります。
実際に当事務所ではリモートワーカーの外国人ITエンジニアの申請を何度も行っておりますが、それを理由に「不許可」となったことは1度もありません。

【国内編】日本国内でのリモートワーク:ケース別の注意点

日本国内でのリモートワークは、適切なルールを整備・運用すれば、在留資格上も問題なく実施できます。ここでは、企業の関心が高い「フルリモート」と「ハイブリッドリモート」の2つのケースに分け、それぞれの注意点を解説します。

フルリモート(完全在宅)

前述の審査官がおっしゃった注意点を元に、フルリモートの際の注意点を2点挙げます。

① 適切な労務管理の実施(労働時間・活動内容の把握)

まず、従業員がオフィスから離れた場所で、就業規則や雇用契約に則って適正に業務を遂行していることを、企業が客観的に把握・管理できる体制を構築することが極めて重要です。 例えば、労働時間の管理については、勤怠管理システムの導入やPCのログオン・ログオフ時間の記録、始業・終業時の報告義務化など、客観的な方法で労働時間を把握する仕組みが求められます。 また、在留資格で許可された活動内容をきちんと行っていることを示すため、日報や週報による業務報告や、プロジェクト管理ツールを用いたタスク管理なども有効です。これらの労務管理体制が、「リモートワーク規程」といった形で社内ルールとして明文化されていることが、適正な管理の証明となります。

② 指揮命令系統とコミュニケーション体制の確立

適切な管理・把握体制に加えて、円滑な業務遂行のための指揮命令系統を明確にすることも重要です。誰が、いつ、どのように業務指示を出し、進捗を確認するのかという業務フローを具体的に定めます。さらに、孤立しがちなリモートワーク環境でも円滑な連携が取れるよう、定期的なWeb会議(例:Zoom, Teams)や、チャットツール(例:Slack)での日々のコミュニケーションなど、双方向の意思疎通を図る仕組みが整っていることを対外的に説明できるように準備しておきましょう。

ハイブリッドリモートの原則と注意点

ハイブリッドリモート、すなわち「週に数日出社し、残りは在宅勤務」といった勤務形態は、在留資格上も比較的リスクが少ないとされています。なぜなら、出社によって物理的な勤務実態が伴うため、「勤務先企業の管理下で活動している」と説明しやすいためです。

とはいえ、注意点がないわけではありません。たとえば、実際にはほぼ在宅で、月に一度程度しか出社していない場合などは、実態としてフルリモートと見なされる可能性があります。出社頻度について明確な基準があるわけではありませんが、目安として週1回以上の出社が継続されていれば、「勤務実態あり」として判断されやすい傾向にあります。

このような勤務形態を採用する場合にも、契約書への明記やリモートワーク規程の整備は不可欠です。また、リモート中の勤務時間・内容の記録、業務の遂行状況についての報告体制を整えることで、在留資格の更新や審査時にスムーズな対応が可能となります。

【海外編】海外からのリモートワーク

日本企業の従業員が海外からリモートワークを行う場合、多くの方が「日本のビザは大丈夫なのか?」と心配されます。しかし、結論から言うと、海外に滞在して業務を行うこと自体は、日本の在留資格制度の直接の管理下にはなく、直ちに在留資格が取り消されるといった事態には繋がりません。ただし、「問題ない」という意味は「何の影響もない」ということではありません。特に、日本の在留資格を将来的に更新していく上で、また、企業の法務・税務の観点から、事前に理解しておくべき重要な影響と課題が存在します。

在留資格の更新手続きと審査への影響

海外でのリモートワークが長期化した場合、主に在留期間の更新時に実務的な影響が出てきます。

① 更新手続きの物理的な制約

まず大前提として、在留期間更新許可申請は、申請時と新しい在留カードの受領時の両方で、本人が日本国内に滞在している必要があります。そのため、海外でのリモートワーク中であっても、在留期限が近づけば、手続きのために必ず日本へ帰国しなければなりません。この物理的な制約と、それに伴うコストは無視できないポイントです。

② 更新時に短い在留期間が許可される可能性

在留期間の更新審査では、これまでの在留状況、特に日本国内での活動実績や生活基盤の安定性が重視されます。海外滞在期間が長い場合、更新が許可された場合でも在留期間が「5年」や「3年」ではなく「1年」といった短い期間で決定される要因となり得ます。
※そのような傾向にある、というという事務所の所感ですが、必ずしも「1年」になってしまうという意味ではありません。

③ 再入国許可の期限

言うまでもありませんが、海外へ出国する際は、みなし再入国許可(有効期間1年)または個別の再入国許可(最大5年)の期限内に必ず日本へ戻る必要があります。この期限を過ぎると、保有していた在留資格は失効してしまいます。

在留資格「以外」の重要な法的・実務的課題

むしろ、海外リモートワークで企業が直面する真の課題は、在留資格以外の部分にあります。これらは現地の法律に関わるため、見落とすと深刻なコンプライアンス違反に繋がりかねません。
※社会保険や税金、海外のビザについては、それぞれの専門家にお問合せ下さい。

現地の労働法・ビザ(就労許可)

従業員が業務を行う国の法律が適用されるため、その国で就労が許可されるビザ(査証)の取得が別途必要になる可能性が非常に高いです。観光ビザでの長期滞在や就労は、多くの国で違法行為とみなされます。

国際税務(二重課税リスク)

給与を日本の本社が支払っていても、従業員が居住する国で所得税の納税義務が発生することがあります。日本と現地国の両方で課税される「二重課税」のリスクが生じ、どちらの国で、どのように納税するかは、両国間の租税条約などを確認する必要があり、非常に複雑です。

社会保険の適用

日本の社会保険に加入し続けるべきか、あるいは現地の社会保障制度への加入義務が発生するのか、という問題も生じます。これも二国間の社会保障協定の有無によって扱いが異なり、専門的な判断が求められます。

【実践編】企業が整備・確認すべきことリスト

ここまでリモートワークに関する在留資格上の注意点を解説してきました。本章では、それらを踏まえ、企業が具体的に整備・確認すべき事項を「規程・契約書」「労務管理」「セキュリティ」の3つの観点からご紹介します。これらは、適正な外国人雇用を実現するための重要なチェックリストです。

労務管理体制:労働時間の管理、業務指示・報告、コミュニケーションのルール化

リモート環境でも、企業は労働時間・業務内容を適切に管理しなければなりません。タイムカードや勤怠管理システムを活用し、労働時間・休憩・残業の実態を把握できる仕組みを構築しましょう。また、日次・週次の業務報告や定例ミーティングを通じて、業務状況の共有や進捗確認を行うことも重要です。さらに、業務上のコミュニケーションルール(チャット、メール、ビデオ会議の活用方法)を定め、組織とのつながりを維持する工夫も求められます。

規程・契約書:リモートワーク規程、雇用契約書の見直しポイント

まず重要なのが、リモートワークに関する社内規程と雇用契約書の見直しです。就業規則やリモートワーク規程には、勤務場所、業務の範囲、労働時間、指示命令の方法、費用負担(光熱費・通信費など)などを明記しておく必要があります。雇用契約書でも、勤務地を「自宅(日本国内)」と明示する、勤務形態として「テレワーク勤務を許容する」旨を記載するなど、実態に即した条項が必要です。こうした整備が、入管手続きや労務トラブル時のリスク回避につながります。

セキュリティ対策:機密情報の取り扱い、ITセキュリティポリシーの重要性

ITエンジニアが扱う情報は機密性が高く、リモートワークでは情報漏洩リスクが増します。そのため、社内外からのアクセス制御、VPNの利用、端末のセキュリティ設定(パスワード、ウイルス対策)、画面ロックの義務づけなどの基本対策を徹底する必要があります。また、社内のITセキュリティポリシーに則った教育・研修を行い、外国籍社員にも内容を理解してもらうことが不可欠です。必要に応じて、秘密保持契約(NDA)の締結も検討すべきでしょう。

まとめ

外国人ITエンジニアのリモートワークは、柔軟な働き方を実現する一方で、在留資格や労務・法務面での配慮が不可欠です。特に「技人国」ビザの適正維持には、日本国内での業務実態や体制整備が重要です。企業側が制度を正しく理解し、事前に対応を講じることが、トラブルを防ぎ安定的な雇用継続につながります。

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