
スキルも経験も申し分ない、優秀な外国籍ITプログラマー。しかし、最終学歴が大学ではない…。 このような経歴を持つ人材の採用で、「ビザは取得できるのだろうか」と頭を悩ませる採用担当者は少なくありません。
「大卒じゃないと『技術・人文知識・国際業務』ビザは無理」と諦めてしまうのは、実は非常にもったいないことです。
ご安心ください。大卒という学歴要件を満たさなくても、ビザを取得できる道は主に3つ存在します。本記事では、その3つの代替ルートについて、それぞれの要件と注意点を専門家が徹底解説します。
まず知っておくべきこと——ITプログラマーが取得する在留資格「技術・人文知識・国際業務」

「在留資格」とは、外国人が合法的に日本に上陸・滞在し、活動することのできる範囲を示したものです。2025年9月現在29種類の在留資格があります。在留資格は「ビザ」という名称で呼ばれることが多いです。そのなかでも、ITエンジニアの方で就労可能な在留資格は以下になります。
ITエンジニアが就労可能な在留資格
- 技術・人文知識・国際業務
- 高度専門職
- 身分系ビザ(永住者、永住者の配偶者等、日本人の配偶者等、定住者)
※特定活動(46号)でも実質的に就労可能ですが、特殊な事情がない限りはメリットがないためここでは挙げません。
在留資格『技術・人文知識・国際業務』について
ITエンジニアが日本で就労する場合、いくつかの選択肢がありますが、まずは大きく2種類に分けられます。
一つは、「永住者」や「日本人の配偶者等」といった身分・地位に基づく在留資格です。これらをお持ちの方は活動内容に制限がないため、問題なくITエンジニアとして働くことができます。
もう一つが、専門性を活かして働くための、いわゆる**「就労ビザ」です。この中で、外国人ITエンジニアにとって最も代表的な在留資格が「技術・人文知識・国際業務」**であり、本記事ではこの在留資格を主軸に解説します。(※候補者の経歴によっては、より上位の「高度専門職」ビザを目指せる場合もあります。)
それでは、「技術・人文知識・国際業務」ビザを取得するための、原則的な学歴・職歴要件を見ていきましょう。申請者は、以下のいずれかを満たす必要があります。
下記の【いずれか】を満たす必要があります。
- 大学または日本のIT分野の専門学校を卒業している
従事する業務に関連する分野を専攻して大学(国内外問わず)を卒業しているか、日本の専修学校の専門課程を修了し「専門士」等の称号を得ていることが基本です。学んだ内容と職務内容の関連性が問われます。 - 10年以上の実務経験がある
関連業務について10年以上の実務経験がある場合も要件を満たします。大学等で関連科目を専攻した期間も、この経験年数に含めることができます。 - 国が定めるIT資格試験に合格している
IT分野の特例として、法務省が定める情報処理技術に関する資格試験(例:基本情報技術者試験など)に合格している場合も、学歴や職歴の要件をクリアできます。
以上が、在留資格「技術・人文知識・国際業務」の基本的な要件です。
次章では、この要件を「大卒ではないITプログラマー」という本題に当てはめて、3つの具体的な取得ルートを詳しく見ていきましょう。
【本題】「大卒ではない」ITプログラマー、3つのビザ取得ルート

第2章で触れたとおり、「大学卒業」は技人国ビザの基本要件の一つです。しかし、大卒が絶対条件というのは誤解です。IT分野には、学歴や長年の職歴がなくても、公式に認められた「代替ルート」が複数用意されています。これらは例外措置ではなく、法律に基づく正規の選択肢です。以下では、特に注目度が低いものの、最も強力な近道となる「IT告示」を筆頭に、3つのルートを詳しく解説します。
ルート①:IT告示資格試験に合格している(IT分野の特例)
ITプログラマーなど特定の情報処理技術者だけに認められた、非常に強力な特例ルートをご紹介します。
1. 「IT告示」とは? これは、法務省が特別に告示した、特定の高度IT関連資格の試験合格者については、大学卒業や10年の実務経験といった要件を一切問われることなく、ビザの学歴・職歴要件を満たすものとして扱う、という特例制度です。 IT分野の高度人材を世界中から集めるという国の政策的背景があり、まさにITプログラマーのための「近道」と言えます。
2. 対象となる資格試験の例 対象となるのは、日本の情報処理推進機構(IPA)が実施する多くの**「情報処理技術者試験」**です。具体的には、
- 基本情報技術者試験
- 応用情報技術者試験
- ITストラテジスト試験
- システムアーキテクト試験
- ネットワークスペシャリスト試験 など
これらに加え、インドやベトナム、フィリピンなど、アジア各国で実施されているIT試験のうち、日本の試験と「相互認証」されているものも対象となります。 面接で候補者がIT関連の国家資格について言及した場合は、それがこの「IT告示」の対象となる試験かどうかを確認する価値は非常に高いと言えるでしょう。
●出入国在留管理庁「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令の技術・人文知識・国際業務の在留資格に係る基準の特例を定める件」(IT告示一覧)
ルート②:日本の専門学校を卒業している場合
日本の専門学校(専修学校)を卒業した人材は、IT業界の即戦力として期待される、非常に多い採用ケースです。このルートでビザを取得するには、2つの必須要件をクリアする必要があります。
1. 「専門士」または「高度専門士」の称号
まず、単に専門学校を卒業しているだけでは不十分で、卒業時に「専門士」または「高度専門士」という公的な称号を付与されていることが絶対条件です。これは、一定の基準(修業年限が2年以上、総授業時間数が1,700時間以上など)を満たした課程を修了した者に与えられます。採用時には、卒業証明書だけでなく、「専門士」等の称号が授与されたことを証明する書類も確認しましょう。
2. 専攻分野と業務内容の強い関連性
次に、専門学校の場合は、「何を学んだか」と「これから何をするか」の関連性が厳しく審査されます。
情報処理、システム開発、ネットワーク構築といったIT系の専門課程を修了し、その知識を直接活かせる職務(プログラマー、インフラエンジニアなど)に就くことが求められます。採用時には、必ず成績証明書も提出してもらい、履修した具体的な科目(プログラミング言語、データベース、ネットワークなど)と、入社後の職務内容を具体的に照らし合わせることが不可欠です。
ルート③:10年以上の実務経験を証明する場合
大学や専門学校を卒業していなくても、長年の実務経験を持つ、いわゆる「叩き上げ」の優秀なエンジニアも世界には数多く存在します。そのような人材のためのルートが、「10年以上の実務経験」による申請です。
1. 「10年間」の考え方
この「10年」は、申請する業務内容と関連する分野での実務経験を指します。大学や専門学校などで関連科目を専攻していた期間も、この10年間に含めて計算できる場合があります。
2. 最大の壁:「証明」の難しさ
このルートにおける最大のハードルは、10年分の経験を客観的な書類でどう証明するか、という点に尽きます。本人が作成した履歴書や自己申告は、残念ながら客観的な証拠とは見なされません。 原則として、過去に在籍した全ての企業から、「在職証明書」を発行してもらう必要があります。そして、その証明書には、単に「在籍期間」が書かれているだけでは不十分です。「どのような立場で、どのような専門業務(例:Javaを用いた金融システムの設計・開発など)に従事していたか」が具体的に記載されている必要があります。 海外の企業から、日本の入管が求める形式でこの証明書を取り付けるのは、非常に労力がかかる作業であり、また、時には廃業をしたために入手が困難なケースも多く、このルートの難しさの所以です。
まとめ

ITプログラマーの採用において、「大卒ではない」という経歴だけで、優秀な人材を諦めてしまうのは大きな機会損失です。
本記事で解説した通り、日本の専門学校での学び、10年以上の実務経験、そしてIT告示に定められた資格試験の合格は、いずれも専門性を証明できる、国が認めた公式なルートです。
候補者の方がどのルートに該当し、その証明が可能かどうかの判断には、専門的な知識が不可欠です。個別のケースでお悩みの際は、ぜひ一度当事務所までお気軽にご相談ください。