新しい働き方、副業解禁や起業など、かつての総合職・終身雇用にこだわった働き方から価値観は大きく変わりました。特に日本で働く外国人に多い職業で「ITエンジニア」「翻訳通訳」の場合は、正社員だけでなく業務委託などの自由な働き方も想定されます。しかし、外国人には在留資格(ビザ)の問題があるため躊躇をされる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。本編では、外国人のフリーランスの注意点について解説します。
【結論】外国人とのフリーランス・業務委託契約は問題ありません。
ただし、注意点がたくさんあります。
フリーランスの場合、社会保険・税金、そして在留資格(ビザ)のことなど見落としがちなポイントが多くあります。これらを漏れなく管理できれば問題はありませんが、できない場合は在留資格の変更や期間の更新に影響が出ます。
まず初めに気をつけなければならないポイントを整理しましょう。そして詳しい理由についは次章で確認をします。
企業が気をつけなければならないポイント
- 業務委託契約であっても、(在留資格的な)責任は雇用と同レベルである
- 在留資格を確認し、在留資格で認められる活動内容の範囲内であるかを確認する
- 外国人であることを理由とした不当に安い契約はNG
就労ビザで在留する外国人が 気をつけなければならないポイント
- 短い契約期間の契約には注意する。更新に影響が出る場合がある
- 年収が低いと在留資格の更新に影響が出る場合がある
- 必ず契約書をかわす(証拠が残らないため口約束で受注しない)
- 年収が低いと在留資格の更新に影響が出る
- 人を雇用するほどの規模の場合は『経営・管理』ビザに該当する場合がある
- 契約が無い期間(無職の期間)は長くて3ヶ月
注意ポイント① 在留資格(ビザ)について
フリーランスの場合、在留資格の面で気をつけなければならないことが社員として雇用される場合と比較して多くあります。また、雇用する側もフリーランスとしての契約であったとしても、雇用と同レベルの責任が発生するため注意が必要です。
在留資格と委託できる業務内容の関係
在留資格の面で特に確認が必要になるのが、「就労可能な活動内容であるか」「契約内容に問題はないか」「フリーランスと言える規模か」ということが挙げられます。
在留資格について(身分系と就労系の在留資格)
2023年5月現在29種類の在留資格があり、そのうち報酬をもらう活動ができる在留資格は19種類、身分に基づく在留資格が4種類、就労が認められない(留学や観光など)は5種類、活動内容に合わせて与えられる在留資格1種類があります。
「身分・地位に基づく在留資格」は活動制限がありません。
「身分・地位に基づく在留資格」には『永住者』『日本人の配偶者等』『永住者の配偶者等』『定住者』の4種類があります。身分系の方に関しては、その在留資格が維持できる限り日本人と同様に制約なく働くことができます。
一方の就労系の在留資格を持っている人でも、ルールを守ればフリーランスとして働くことができます。この場合は、「活動内容」や「契約内容」等の注意が必要になってきます。
就労ビザと活動内容の関係について
まず、外国人フリーランサーの在留資格を確認し、活動制限がある就労系の在留資格の場合は委託する業務内容が「在留資格の範囲内かどうか」を確認をしなければなりません。
フリーランスとして業務委託する場合、想定される在留資格は『技術・人文知識・国際業務』になります。ここでは、『技術・人文知識・国際業務』を前提に解説をします。在留資格『技術・人文知識・国際業務』について下記のような仕事内容をすることができます。
もっとざっくりに説明をすると、『技術・人文知識・国際業務』はこのような在留資格になります。
『技術・人文知識・国際業務』の場合、「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う活動」に対して与えられます。この契約は、雇用に限らず「委任」「委託」などが認めらています。ただし、特定の機関(複数社でもOK)との継続的な契約でなければなりません。
またこの在留資格では、転職や契約の締結の度に「在留資格変更許可申請」(=在留資格の申請)をする必要はありません。契約は自由にでき、もっと言えば「1社」に属している必要はなく、複数社に属していても問題ありません。
もし、外国人フリーランサーに上記の活動内容以外の業務を委託する場合は、委託前に次の「資格外活動許可」の申請を検討しなければなりません。
資格外活動許可について
フリーランスの方に仕事を委託する場合に、その仕事内容が既に持っている在留資格の範囲外の活動を行う場合には「資格外活動許可」を取得する必要があります。この「資格外活動許可」は、学生や主婦の方が取得する包括許可(週28時間まで勤務可能)ではなく、具体的な仕事内容を記載した「個別許可」になります。これは業務の委託前に申請し予め許可を取っておくものになります。ただし、この「個別許可」で認められる活動は「どのような業務」でも認められるものではなく、他の在留資格で認められる範囲内の内容に限られます。
業務委託契約を結ぶ前に、必ず在留資格の確認を行い活動内容に問題が無いか確認を行いましょう。
フリーランスの場合で想定されるケースとしては、「教授」の在留資格を持っている場合で、平日は大学で授業をし、土日は語学スクールで語学を教える場合などがあります。
問題無く在留期間の更新するための契約内容についての注意点
就労系の在留資格で在留する場合は、「安定的・継続的な活動」であることが求められます。「安定手的・継続的な活動」ができていない場合、在留そのものが危うくなります。
お仕事を継続して依頼したいと思われる場合でも、突然、在留期間の更新が出来なくなって帰国をせざるを得なくなる、と言うことが無いように委託側も知っておきたいポイントをまとめました。
契約期間の注意点
『技術・人文知識・国際業務』で審査されるポイントの一つに「継続的安定的な活動ができる」ということがあります。契約期間が1年以上の業務委託(ほとんど契約社員に近い状態)のような場合であれば、問題ないと言えますが、数か月期間の契約を1社~複数社と結んでいるような場合には、「安定的な活動」ではないとみなされ、不許可となってしまう可能性があります。
また、業務委託の契約と別の契約の間(=仕事がない期間)は長くて3か月以内にしなければなりません。年収が高くて貯金があるからと言って働かない期間が長いと、在留資格で定められた活動をしていないと判断され、出国しなければならなくなります。
契約内容の注意点
外国人であることを理由に不当に報酬を下げることは許されません。多くの就労ビザの要件に「日本人と同等以上の報酬が支払われること」が挙げられます。同じ業務を委託する日本人と同等でなければなりませんし、同業他社と比較しても相場以上でなければ「日本人と同等以上」であるとは言えません。
当然のことでありますが、口約束で受注するとご自身の仕事量や委託金額を客観的に示すことはできないため、必ず契約書を締結するようにして下さい。仕事を委託する企業の方も、「外国人だから日本語読めないのでは」と思わず、場合によっては翻訳をしてでも契約をしたほうが、お互いに認識の不一致やトラブルを避けることができるので、契約書は必須と考えてください。(当然、入管も確認します。)
年収の注意点
在留期間の更新の審査ポイントの一つに「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」というものが挙げられます。契約内容が短く、次の案件も決まっていないような場合には、在留期間の更新がままならない場合があります。
『技術・人文知識・国際業務』の場合、決定される在留期限は「3ヶ月」「1年」「3年」「5年」ですが、契約期間が安定しないフリーランスの場合は長い年数の在留期限はもらえにくいと考えたほうがよいです。
注意ポイント② 外国人に本業がある場合(副業として業務委託をする場合)
既に本業がある外国人に副業として業務委託を行うことも、在留資格の活動の範囲内であれば問題はありません。特に許可を取る必要もありません。例えば、A社の社員としてITエンジニアをしている外国人が、B社から業務委託でシステム開発を副業として受託しても問題ありません。
(在留資格で認められた範囲外の仕事をする場合は、前述の「資格外活動」の許可を取る必要があります)
先ほどは、契約期間について注意が必要と書きましたが、副業の場合は本業でしっかりとした収入があるような場合には、短期間でも問題は無いと言えます。ただし、入管へのアピールやトラブル回避のために必ず契約の締結を行ってください。
ちなみに、副業していることを隠すのは得策とは言えません。各行政にしっかり報告してください。
注意ポイント③ 忘れてはならない手続きについて
フリーランスの場合、雇用されている場合と違って行政への手続きや税金の支払いはすべて自分でやらなければなりません。以下は、外国人の方がご自身で行う手続きにはなりますが、「源泉徴収」などは企業にも関係のある手続きになります。
フリーランスの場合でも社会保険の加入は必須です
会社員の場合、社会保険(更生年金、健康保険)は会社が加入手続きを行い、支払いも給料から天引きをされていたので特に意識をしなくても問題ありませんでした。フリーランスの場合は、国民年金、国民健康保険に自分で加入を行い、自分で支払いをしなくてはなりません。これらの滞納は1日であっても永住者の申請時に大きく影響が出てしまいます(近年、永住申請の審査は非常に厳しいです。)。また、日本では国民皆年金・保険の制度となっており、外国人を理由に免除をされる規定はありません。
加入の手続きはお住まいを管轄する市区町村役場で行います。特に会社員の方がフリーランスになった場合は、この手続きが必要です。
確定申告をして1年間の収入を申告します
外国人であっても所得税は等しく課税されます。企業は源泉徴収が必要な場合は日本人と同様に行う必要があります。
フリーランスの場合、自分で1年間の収入を申告します。これを確定申告と言います。毎年1月1日~12月31日までの売上を翌年の決められた日付までに税務署に届け出る必要があります。
▶国税庁『確定申告が必要な方』
課税されたら税金の支払い(納税)も忘れずに
納税も忘れずに行う必要があります。フリーランスの方が支払う税金の代表的なものは住民税、所得税となります。これらの税額は、確定申告をすることで決定され、納付書が届き支払うことになります。
税金についても滞納や未納は認められません。在留期間更新時の審査ポイントの一つ「納税義務を履行していること」があり、未納があると審査に影響があります。
入管への届出も必要です
これも外国人本人が行う手続きになりますが、複数社と契約を行う場合であっても、全てを入管へ申告を行わなければなりません。その際に提出するのが「契約機関に関する届出」になります(詳細はこちら)。契約機関の名称・所在地に変更が生じた場合や、契約機関の消滅、契約機関との契約の終了・新たな契約の締結が あったときには14日以内に法務省令で定める手続を行うます。
「契約機関に関する届出」漏れは、在留期間更新申請の際の「素行要件」の一つである「入管法に定める届出等の義務を履行していること」を満たしていないこととなり、厳しい結果(不許可にはあまりなりませんが、決定される在留期間が短め) になる場合があります 。
在留期間の更新時は申請内容に問題が無いかきちんと確認が必要
理論上・制度上は外国人のフリーランスとしての働き方は可能ですが、雇用される社員と比較されると難易度が上がります。上記の通り、業務内容や報酬の面だけでなく、法律で定められた手続き、納税等を滞りなく行えているか多方面から確認をしなければなりません。
フリーランスとして想定される、ITエンジニアや翻訳通訳の場合、雇用されていれば「在留期間更新許可申請」は難しいものではありません。しかし、フリーランスの場合は細心の注意を払わなければ、不許可といった結果にもなりかねません。
特に、心配事がある方は事前に当事務所にご相談いただけたらと思います。
【補足】人を雇うほどの規模になると『経営・管理』ビザの検討が必須
業務委託で複数社と契約し案件の対応を雇用した従業員に行わせる場合などは、業務委託で『技術・人文知識・国際業務』の活動を行っているというよりも、経営を行っていると思われてしまう場合があります。この判断基準として「法人」と「個人事業主」は関係はありません。例え個人事業主であってもそれなりの規模になると『経営・管理』ビザを取得したほうが望ましいケースがあります。
まとめ
以上、外国人のフリーランスについて解説をしました。
就労ビザであってもフリーランスは可能で、業務委託でお仕事を依頼することも可能です。しかし、やはり在留資格的に注意しなければならないことも多く、またフリーランスであっても企業の責任が減るわけではありません。
ポイントをしっかりおさえれば、フリーランスも副業も可能です。